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第106話 ハート皇国の行く末・後編

 聖教会が来たことで、以前の伝統が廃れてしまったのなら、アレクシス殿下が知らないのは無理もないだろう。歴史の流れとはいえ、それはやはり悲しいものがある。


「これだから皇族は。本来、『花唄祭』は皇族が行う催事であり、ダイヤ王国の歌姫がハート皇国の土地に赴き、その地に住む精霊や妖精に祝福を与える。定期的に精霊との橋渡しをし、調律を行う。それがハート皇国の土地への大地の恵みを与える条件でもあったのですよ」

「なっ……」

(初耳……あ、でも私が生まれる前までは歌姫を決める催し物があったとかお母様が言っていたような? 今は収穫祭や、感謝祭、皐月祭、春祭り、夏祭り……祝福祭……うんうちの国、季節ごとにいろんな名前を変えてお祭りしていたわ)


 改めて祭りが多かったのは、精霊と妖精への感謝を伝えるためだったりする。彼らは楽しいことが大好きで歌ったり、踊ったりするのも好きで、その日だけ人の姿になって、踊ろうとしていたのを何度も見ていた。


「『花唄祭』は、元々は他国で精霊たちが動くための報酬だったのね。そして本来、聖女ではなく歌姫がダイヤ王国から派遣されていた。けれど時代と共に食料支援だけになってしまった」

「その通りです。我が主人(マイロード)、素晴らしい慧眼……!」

「姫さんと対応の差が凄まじいな」

「あはは……」


 アレクシス殿下の言葉に、私は苦笑いを浮かべるしかない。


「ええ。金銭は私たち人間の基準だもの。それに妖精や精霊たちが大掛かりに動く場合は盟約、契約、約束という形で結ぶもの。たとえ口約束だろうと、破れば妖精や精霊が力を貸さないのは無理もないわ。そして彼らが『唄』を求めた以上、彼らが納得するだけの歌唱力が必要になる」


 妖精や精霊は嘘がつけない、つく必要がない。そして妖精よりも、精霊との約束は破った時に跳ね返ってくる代償(ペナルティー)は途方もないものになる。


「我が主人(マイロード)に比べて、亜人たちは脳筋ばかり。だから聖教会なんぞにお株を奪われるのですよ」

「ほんと、俺との対応が雲泥の差なんだが……」

「当然です。私が敬愛するのは、この世界でたった一人ですから」

(言い切った……)

「ああ、フェイ殿は人間の中では、尊敬に値すると言っておきましょう。さすが我が主人(マイロード)の伴侶となられるお方です」

「……! ふふふっ……私よりもフェイ様が褒められて嬉しいわ」

「ああ、なんという笑顔。眩い」


 精霊が人を褒めるのは珍しい。

 それも『尊敬』とまで言うのだから、それはもう驚くべきことだ。なにより自分の好きな人が褒められるというのは嬉しい。思わず口元が緩んでしまう。


「フェイ様はすごい方なのです」

「そうでしょうとも。別空間に閉じ込められた方を取り戻せたのは、私が生きてきた中でフェイ殿だけです。彼が立ち上がらなければ、貴女様はあの空間に閉じ込められたままでした」

「(フェイ様が立ち上がったからこそ、光の精霊(テオ)や妖精王(オーレ・ルゲイエ)たちも力を貸してくれたのね。そして兄様や父様、母様もそれを応援してくれた)本当にすごい人なの」


 眠っている黒猫の頭を撫でた。フェイ様の半身じゃなく本人だと知って驚きはしたが、愛しい人が傍にいるという事実が胸を熱くした。

 フェイ様が傍にいるとわかると、怖かった思いや不安が溶けていく。なんとも現金なものだと我ながら思ってしまう。


(人の姿に早く戻してあげたいけれど、この国のことを放っておいて帰れないわ。フェイ様、もう少しだけ我慢してもらえますか)

「なう」


 偶然だろうが、黒猫は小さく返事をする。目が覚めたのかと思ったが、ごろごろと心地よさそうに眠ったままだ。けれどこれで私の覚悟が決まった。


「テオ。やはりここまで知った以上、聖教会を一度潰さなければ、同じことが繰り返してしまうわ」

「ああ、我が主人(マイロード)。なんと素晴らしい覚悟でしょうか。このテオ、委細承知いたしました。ならば教会を一度壊滅するため粉骨砕身致しましょう」

「俺の腹も決まった。聖教会を一度潰した後、信仰自体は残しつつ本来あった伝統を復活させて、皇族の管轄に戻す」

「ええ!?」


 アレクシス殿下はサラッと重要事項を決断した。テオはともかく、アレクシス殿下の思い切りの良さに私は面喰ってしまう。


「なんだ、驚いた顔をして」

「あ、いえ。即決するとは思わなかったので……」

「これでも国を背負って立つ側だからな。熟考することが悪いとは言わないが、どうすれば被害を最小限に抑えて、国の立て直しを図るか答えが出ているのだから、悩む必要がないだろう!」


 教会を壊滅させて立て直すとしっても、無血ですまないかもしれない。それでもその道が瘴気と魔物から国民を守ることができるのなら──アレクシス殿下は選んだのだろう。

 アレクシス殿下とテオは計画を詰めるため、部下の元に向かった。


 その結果、まさか私が聖女の真似事をすることになるなんて、思ってもみなかった。


(覚悟は決めたけど、私が聖女役って……なんだか複雑だわ)


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