第12話「ぱむ」
扉まで、一歩。
ぱむちゃんは動かなかった。
紙袋の持ち手が、丸い手に食い込んでいる。
右へ行けば、西六番街共同倉庫。
左へ行けば、PANDEMONIUM BURGERの受領地点。
どちらも届く。
どちらかしか、届かない。
◇
ぱむちゃんは振り返った。
机の上。
六二番の古い袋。
傷のついた目覚まし時計の記録。
坂上団地。
町工場。
保育園。
黄砂海。
移動診療所。
受領済みの紙と、その後に増えた紙。
届いた後も続いたもの。
届かなかった側で続いたもの。
◇
真意ちゃんの紙には、まだUNKNOWNが残っている。
《差出人 UNKNOWN》
《本来の届け先 UNKNOWN》
ぱむちゃんは、それを指でなぞらない。
至誠ちゃんを見る。
手は下がっている。
二諦ちゃんを見る。
何も言わない。
世達ちゃんの受領票は、二枚とも空欄。
◇
ぱむちゃんは紙袋を床へ置いた。
両手を離す。
十二歩、戻る。
机の前。
二枚の受領票を見る。
A。
B。
A。
B。
それから、六二番の古い袋を一度だけ触る。
ぱむ。
紙袋のところへ戻った。
◇
持ち上げる。
配送口を開ける。
二本の道がある。
ぱむちゃんは右へ向いた。
西六番街共同倉庫。
誰も声を出さない。
ぱむちゃんが一歩進む。
扉が閉じる。
◇
共同倉庫は、古い建物の壁を半分だけ残して使われていた。
新しい棚。
古い床。
入口脇に、消えかけた文字。
《第三制作室》
その下に、新しい札。
《西六番街共同倉庫》
管理人が出てくる。
「荷物?」
ぱむ。
ぱむちゃんは紙袋を差し出す。
管理人が古い用紙を見る。
「うち宛てなの?」
ぱむちゃんは答えない。
「分からない?」
ぱむ。
管理人は少し待った。
「でも、ここで受け取れる?」
ぱむ。
紙袋を受け取る。
◇
古い用紙の空欄に、文字が浮いた。
《受領済》
同時に、店に残したAの受領票から文字が消えた。
《受領候補A》
だった紙は、ただの白紙になった。
二諦ちゃんは触らない。
至誠ちゃんも指ささない。
世達ちゃんがBの記録だけに時刻を書く。
◇
共同倉庫。
管理人が紙袋を棚へ置く。
「誰が頼んだか、分からないままなんだね」
ぱむ。
「じゃあ、正しかったかも分からない?」
ぱむ。
管理人は受領印を見る。
「それでも持ってきたんだ」
ぱむちゃんは管理人を見る。
それから、空になった両手を見る。
ぱむ。
◇
店へ戻る道は、一本だった。
受領票は一枚だけ埋まった。
もう一枚は戻らない。
ぱむ。




