第11話「リレーションしません」
紙袋を持つと、店が静かになった。
厨房では油が鳴っている。
冷蔵庫も動いている。
客席では椅子を引く音がした。
ぱむちゃんの前には、二枚の票がある。
《A 現在店舗・配送口》
《B 西六番街共同倉庫》
◇
ぱむちゃんは紙袋をいったん机へ置いた。
至誠ちゃんを見る。
深緑の印は出ない。
赤い経路線も出ない。
至誠ちゃんの手も上がらない。
「どちらも運べます!」
ぱむ。
彷徨ちゃんが配送口の横へ退く。
「道なら、どっちもあるよ」
扉には触れない。
二諦ちゃんは二枚の票を伏せた。
「まだ二つ残っています」
ぱむ。
「ここからは見ません」
◇
真意ちゃんが古い用紙を透明袋へ戻す。
《差出人 UNKNOWN》
《本来の届け先 UNKNOWN》
「昨日から、ここは変わってない」
ぱむちゃんは透明袋を見る。
「調べれば一つになる、とも言えない」
真意ちゃんは机から離れた。
◇
世達ちゃんが二枚の受領票をクリップから外す。
「記録は受領後にします」
日付欄。
受領時刻。
どちらも空白。
世達ちゃんはペンを置いた。
ぱむちゃんが紙袋を持ち直す。
茶色い紙が、かさ、と鳴った。
◇
配送口まで、十二歩。
一歩。
二歩。
三歩。
紙袋の底が、丸い手に少し沈む。
四歩。
厨房から声が飛ぶ。
「ポテト上がります!」
五歩。
店員がぱむちゃんの後ろを横切り、客席へ出ていく。
六歩。
厨房のタイマーが鳴る。
七歩。
配送口の向こうで、二本の道が一瞬だけ見える。
八歩。
ぱむちゃんの足元は変わらない。
九歩。
至誠ちゃんの右手は下がったまま。
十歩。
紙袋を抱え直す。
十一歩。
止まる。
扉まで、一歩。
◇
客席でストローの袋が破れる音がした。
厨房では次のバンズが鉄板へ置かれる。
誰も、ぱむちゃんを見ていなかった。
ぱむちゃんは自分の足を見る。
紙袋を見る。
扉を見る。
右手を少し持ち上げる。
深緑の印は出ない。
その手で、紙袋の持ち手を握り直した。
ぱむ。
最後の一歩は、まだ踏まなかった。




