↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
94/100

第9話「選ばなかったほう」


 時計店には、もう一人いた。


 待合椅子。


 膝の上に、小さな目覚まし時計を置いている。


「あ」


 ぱむちゃんを見る。


「前の配達の子」


 ぱむ。


 ◇


「覚えてる?」


 ぱむちゃんは時計を見る。


 ぱむ。


「私は覚えてるよ。工具が遅れて、修理が次の日になった」


 女は目覚まし時計を持ち上げた。


「その夜だけ、スマホのアラーム使った」


 裏蓋に、小さな傷が一本ある。


「待ってる間に落とした。これ」


 ぱむ。


「消えないけど、動くから」


 十二時のベルが鳴った。


 作業台の男が工具を置く。


《午後再開》


 女が札を見る。


「今はちゃんと昼休み取るんだね」


「取ることにした」


 弁当箱の蓋が開いた。


 ◇


 坂上団地。


 老人が玄関前で鉢に水をやっていた。


「ぱむちゃん。薬、あの日は助かったよ」


 ぱむ!


 隣の部屋から、若い男が出てくる。


「俺はあの日、町工場で夜まで残業だった」


 ぱむちゃんが振り向く。


「部品が三分前に届いて、機械が止まらなかった日」


 男は笑う。


「止まってたら帰れたんだけどな」


「じゃあ、ぱむちゃんが悪かったのか?」


「いや。給料ついたし」


「ならいいだろ」


「子どもとの風呂は逃した」


 二人とも笑った。


 若い男が腕時計を見る。


「今日は間に合う」


 ◇


 保育園。


 あの日、同じ時間に食べられた子が園庭を走っている。


「助かったよ。あの子だけ別室にしなくて済んだ」


 調理員が門の脇の連絡表をめくる。


《代替食応援/出発前確認》


「隣の園の先生、あの日は途中まで来てたんだ。引き返してもらったから」


 ぱむ。


「次から、出る前に電話することにした」


 園庭から声が飛ぶ。


「ぱむちゃーん!」


 ぱむ!


 ◇


 店へ戻る。


 世達ちゃんが三枚の紙を並べた。


《時計修理 一日遅延/継続使用》

《工場稼働継続/残業発生》

《代替食到着/支援者引返し》


「損害だけには分類できません」


 一枚目の端へ、傷の印を足す。


「利益だけにも分類できません」


 二枚目へ、今日の退勤時刻。


 三枚目へ、《出発前確認》。


 ぱむちゃんは三枚を見る。


 世達ちゃんが《成功》《損失》の判を二つ出した。


 ぱむちゃんは、どちらも取らなかった。


 代わりに三枚を重ね、古い用紙の隣へ置く。


 ◇


 閉店前。


 向かいの時計店から、目覚まし時計のベルが聞こえた。


 ぱむちゃんは顔を上げる。


 すぐに止む。


 古い用紙には《UNKNOWN》。


 ぱむちゃんはその紙を裏返さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。