第8話「指さしたほう」
至誠ちゃんと歩くのは、久しぶりだった。
荷物はない。
ぱむちゃんが持っているのは、古い用紙の複写だけ。
行き先も決まっていない。
◇
店を出る。
最初の角。
右は時計店。
左は駅前集積所。
至誠ちゃんの右手が上がった。
途中で止まる。
ぱむちゃんが見る。
「右は六二番の受取人です!」
左を見る。
「左は現在の通常配送網です!」
手を下ろす。
「どちらも事実です!」
ぱむ。
ぱむちゃんは右へ歩いた。
◇
時計店の前を通り過ぎる。
次の交差点。
「この先は坂上へつながります!」
ぱむ。
「反対は町工場です!」
至誠ちゃんの手は、体の横にある。
ぱむちゃんは二方向を見た。
至誠ちゃんも待つ。
ぱむちゃんは坂上側へ進んだ。
◇
途中で配送自転車とすれ違う。
坂上便の運び手だった。
ハンドル脇に、書き込みの増えた地図が挟まっている。
「今日は自分で行けるよ」
ぱむ!
「経路良好です! 到着予定にも余裕があります!」
自転車はそのまま坂を上っていった。
◇
坂上団地の手前。
古い用紙の複写を出す。
至誠ちゃんが確認する。
「現時点で、差出人も届け先も確定していません!」
ぱむ。
「受領可能な状態が複数あることは確認済みです!」
ぱむ。
少し黙る。
「私なら」
至誠ちゃんの右手が、また上がりかけた。
止まった。
「……私なら、届ける方を選びたいです!」
ぱむちゃんが至誠ちゃんを見る。
「でも、それは私の希望です!」
手を胸へ戻す。
「ぱむちゃんの指示にはしません!」
◇
帰り道。
ぱむちゃんが先を歩いた。
至誠ちゃんは半歩後ろ。
曲がり角で、ぱむちゃんが止まる。
至誠ちゃんを見る。
右手は上がらない。
ぱむちゃんが左へ曲がる。
遠回りだった。
至誠ちゃんはついてきた。
◇
PANDEMONIUM BURGERの看板が見えた。
正面扉と配送口へ続く裏道が分かれる。
ぱむちゃんは正面扉へ向かう。
至誠ちゃんも同じ方へ歩く。
「戻る場所は同じです!」
ぱむ!
「道は、ぱむちゃんが選びました!」
至誠ちゃんが先に扉へ手をかける。
指ささず、開けて待つ。
ぱむちゃんが店へ入る。
古い用紙は、まだ机の中央にある。
ぱむちゃんは複写をその横へ置いた。
至誠ちゃんは扉から手を離した。




