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第9話「これは誰のもの?」


 広報イベントの翌朝。


 店の奥へ、黄色い星が戻ってきた。


 端が少し丸まっている。


 真意ちゃんは、返された備品を一つずつ机へ並べていた。


「撮影枠、一。帽子、二。紙吹雪、未使用」


 黒い帽子の底から、丸いぱむちゃんシールが一枚落ちる。


「これは紙吹雪ではない。分けます」


 机の前には白い線が三本あった。


 左。


《確認前》


 右。


《確認済》


 真ん中だけ、細い縞。


《保留》


 ぱむちゃんは旗を一本運ぶ。


「入口用。三本目。確認しました」


 右へ。


 背景幕。


「汚れなし」


 右へ。


 撮影枠。


「中央に、ぱむちゃんがいない写真の道具」


 ぱむちゃんの手が止まった。


「記録上の区別です。良い悪いは、今は別」


 ぱむちゃんは撮影枠を右へ置いた。


 ◇


 返却用の台車が届いた。


 空箱。


 巻いたケーブル。


 予備端末。


 一番上に、小さな灰色の鞄。


 持ち手には白い札。


《受取:真意/記録室》


 側面の透明窓には青い紙。


《受取:赤い腕章の係/一階フロア》


「返却はこちらでいいですか」


 台車を押してきたスタッフが聞く。


「一つずつ見ます。台車はそこへ」


 真意ちゃんはケーブルの番号から目を上げなかった。


 ぱむちゃんは灰色の鞄の前に立った。


 白い札は、こちら側。


 青い紙は、反対側。


 片方だけ見れば、迷わなかった。


 ◇


 赤い腕章の係が入ってきた。


 両手に空の飲料ケース。


 台車の横で足を止める。


「あ。それ、私の回収分かもしれません」


 ケースを床へ置く。


 手が伸びる。


 ぱむちゃんは先に鞄の持ち手を取った。


 台車から下ろす。


 青い紙が、係の腕章と同じ色で揺れた。


 一歩近づく。


 鞄が回る。


 白い札が正面へ出た。


《受取:真意/記録室》


 ぱむちゃんの足が止まった。


「どうしました?」


 係の手は伸びたまま。


 ぱむちゃんは向きを変える。


 今度は真意ちゃんの机へ。


「私宛てですか」


 真意ちゃんが顔を上げた。


 白い札を見る。


 両手を出す。


 ぱむちゃんは持ち手を下げなかった。


 鞄を半回転させる。


 青い紙が出る。


 真意ちゃんの手が止まった。


「……もう一つありますね」


 赤い腕章の係も近づいた。


「真意さんの名前があるなら、そちらでは?」


「あなたの腕章と、一階フロアもあります」


「昨日は私がフロア備品を回収しました。でも、その鞄を入れた覚えはありません」


「私は受け取る予定を記録していません」


 ぱむちゃんは二人の間に立っていた。


 右へ一歩なら、真意ちゃん。


 左へ一歩なら、赤い腕章。


 どちらにも行かなかった。


 床を見る。


《保留》


 細い縞まで、鞄を運ぶ。


 底を床へつける。


 倒れない。


 そこで初めて、持ち手を離した。


 ◇


 真意ちゃんは白い札を読む。


 青い紙を読む。


 端末で管理番号を照合する。


「同じ管理番号が、二つの返却表にあります」


「入力した人が間違えた?」


「それは原因の推測です」


「じゃあ、どちらが正しいんですか」


「まだ決めません」


 真意ちゃんは端末を伏せた。


「今確認できるのは、白い札が真意を示していること。青い紙が赤い腕章を示していること。記録室と一階フロア、両方の指示が現物に残っていること」


 鞄の両側を指す。


「片方を消せば、きれいにはなります。でも、それは確認ではない」


 ぱむちゃんは白い札を触らない。


 青い紙も抜かない。


「今は、不明でいい」


 真意ちゃんが《保留》の縞を見た。


「渡さないことも、処理です」


 ぱむちゃんが小さく跳ねた。


 鞄は動かなかった。


 ◇


 昼になった。


 真意ちゃんは記録室へ行き、戻った。


 赤い腕章の係は飲料を補充し、空ケースを何度も運んだ。


 二人とも仕事を続けている。


 灰色の鞄だけ、まだ縞の上にあった。


 誰かが近づくたび、ぱむちゃんは立つ。


 その人が白い札を読む。


 青い紙を読む。


 首を傾げる。


 去る。


 ぱむちゃんはまた座る。


 黄色い星は机の端に置かれたままだった。


 昨日は、星の上にいることが仕事だった。


 今日は。


 線の外へ出さないことが仕事になっていた。


 真意ちゃんが新しい紙を一枚立てる。


《受取人確認中》


 ぱむちゃんは紙が倒れないよう、足元だけ押さえた。


 鞄には触れない。


 白い札も。


 青い紙も。


 どちらも残った。


 鞄はまだ、誰のものにもならなかった。

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