↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/100

第10話「まっすぐ行けば着きます」


 小さな青い箱が、厨房の受け渡し台に置かれた。


《設備室・北側担当》


 送り出すクルーが、廊下の奥を指す。


「突き当たりを右。すぐです」


 ぱむちゃんは青い箱を抱えた。


 まっすぐ。

 突き当たり。

 右。


「私も、そちらへ行きますねぇ」


 彷徨ちゃんが現れた。


 空の小瓶。

 返却票の束。

 誰かの鍵。


「一緒に行きましょう。まっすぐ行けば着きますねぇ」


 ぱむ!


 ◇


 三歩目で、彷徨ちゃんは左へ曲がった。


 ぱむちゃんだけ、まっすぐ進む。


「あら」


 彷徨ちゃんが振り返る。


「小瓶を洗い場へ返すんでした」


 ぱむちゃんは青い箱を見る。


 突き当たりを見る。


 彷徨ちゃんを見る。


 左へ曲がった。


 洗い場で小瓶が一本減った。


 代わりに乾いた布が一枚増えた。


「北側担当へ、だそうです」


 彷徨ちゃんが布を持つ。


「では、続きからまっすぐですねぇ」


 右へ戻れば元の廊下だった。


 二人は左へ進んだ。


 ◇


 客席へ出た。


 開店前で、椅子はまだ机の上。


 昨日の広報用の旗が一本、壁へ立てかけてある。


「入口の旗ですねぇ」


 彷徨ちゃんが拾う。


 入口は反対側だった。


 ぱむちゃんは青い箱を抱えたまま、旗の先を見た。


 二人は入口へ行った。


 旗を立てる。


 設備室からは遠ざかった。


 彷徨ちゃんが鍵を見る。


《屋上資材庫》


「これも返しますか」


 ぱむちゃんは青い箱を見る。


《設備室・北側担当》


 鍵を見る。


 屋上を見る。


 箱を抱えたまま、階段へ向かった。


 ◇


 屋上で鍵が一つ減った。


 代わりに点検票が増えた。


《北側担当へ》


「同じ方ですねぇ」


 彷徨ちゃんは少し嬉しそうだった。


 植木へ水をやっていたクルーが言う。


「設備室、一階ですよ」


「はい。今から下へまっすぐです」


 ぱむちゃんが先に階段へ向かった。


 三階。

 二階。


 彷徨ちゃんが扉を開ける。


 書庫だった。


「あら。一階はもう一つ下でしたねぇ」


 返却票の束を見て、そのまま書庫へ入る。


 返却票が減った。


 赤い磁石が増えた。


《北側担当》


 ぱむちゃんは磁石を見る。


 青い箱を見る。


 今度は、先に歩き出した。


「階段、そちらでした?」


 ぱむちゃんは止まらない。


 彷徨ちゃんがついてきた。


 ◇


 一階へ戻ると、店は開いていた。


 最初の廊下は台車と食器で塞がっている。


 ぱむちゃんは人の流れを見る。


 厨房へ戻る道を見る。


 青い箱を見る。


 そのどれにも進まない。


 従業員通路へ入った。


「そちらも道ですかねぇ」


 冷蔵庫。

 更衣室。

 搬入口。


 また設備室から遠ざかった。


 搬入口で、台車の下から脚が二本出ていた。


 彷徨ちゃんが止まる。


「北側担当さん」


 脚が止まった。


「はい」


「設備室へお届け物です」


「今、出られません。置いておいてください」


 ぱむちゃんは設備室を探さなかった。


 台車の横へ座った。


 ◇


 工具の音が続く。


 ぱむちゃんは箱を床へ置かない。


 白い封を上へ向けたまま、膝に載せる。


 彷徨ちゃんは乾いた布を見た。


「これ、今使えそうですねぇ」


 台車の下へ差し出す。


「助かります」


 布が消える。


 しばらくして、北側担当が這い出してきた。


 布で拭いた手に、点検票。


 赤い磁石。


 最後に青い箱。


「これを待っていました。北側の温度計に使います」


 白い封は切れていない。


 箱も傾いていない。


 ぱむちゃんは、空いた膝を見る。


 次に北側担当を見る。


 設備室は、まだ見つけていなかった。


 ◇


「どこから来たんですか?」


 北側担当が聞いた。


 彷徨ちゃんは、何も持っていない自分の手を見た。


「厨房からです。途中で洗い場と入口と屋上と書庫を通りました」


「それ、全然まっすぐじゃないですよ」


「そうですかねぇ」


 彷徨ちゃんは廊下を二つ見比べる。


「でも、全部ここへ着きました」


 乾いた布も。

 点検票も。

 赤い磁石も。

 青い箱も。


 ぱむちゃんは北側担当の胸にある名札を見た。


《設備・北側》


 それから、来た道へ向く。


「帰りは、どちらでしたっけ」


 彷徨ちゃんが聞く。


 ぱむちゃんは一方を指した。


「そちらですか」


 ぱむちゃんは首を横に振った。


 指を下ろす。


 もう一方も指さない。


 彷徨ちゃんが笑った。


「では、帰れる方へ行きましょうか」


 ぱむ!


 二人は設備室を探さずに歩き出した。


 届け先だけは、もう見つかっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。