第11話「三つのおつかい」
朝の作業表に、三つだけ空欄があった。
秩序ちゃんは横へ、一、二、三と番号を書く。
「同じ仕事としてまとめません。受取、探索、保護。別条件です」
一枚目。
《計時室/調整係》
二枚目。
《資料庫/赤い帳面の担当》
三枚目。
《配送口/至誠》
「一件ずつ結果を固定します」
ぱむちゃんは、一の札を取った。
◇
一つ目は、銀色の鍵だった。
計時室では、調整係が脚立の上で大時計の針を押さえていた。
「机へ置いてください」
机には、よく似た鍵が六本。
ぱむちゃんは机まで行った。
銀の鍵を、その上へ置かない。
脚立の真下へ戻る。
振り子が右へ。
ぱむちゃんも右へ傾く。
左へ。
左へ傾く。
「まだ持ってるんですか」
ぱむ。
調整係は片手を離しかけた。
大時計の針が、少し沈む。
ぱむちゃんが跳ねた。
「分かりました。終わらせます」
留め具を締める。
脚立を下りる。
今度は両手ではなく、胸元の専用リングを指した。
「ここへお願いします」
ぱむちゃんは銀の鍵を差した。
似た鍵六本とは、混ざらなかった。
◇
「待機。本人受領。完了」
秩序ちゃんが一を埋めた。
二つ目は赤い帳面。
「資料庫。赤い帳面の担当」
資料庫は空だった。
机が四つ。
棚が七列。
帳面を置ける場所はいくらでもある。
ぱむちゃんは入口の予定表をめくった。
《午前 棚卸し》
赤い表紙の角には黒いインク。
棚の取っ手にも、黒い指跡。
一つ。
二つ。
三つ目は廊下の外へ続いていた。
ぱむちゃんは帳面を抱え、跡を追う。
途中で跡は消えた。
紙束を運ぶ三人が通る。
白い手袋。
素手。
右手だけ黒い人。
ぱむちゃんはその人の進行方向へ先回りした。
赤い帳面を床へ立てる。
相手が足を止めた。
「それ、探してたやつ」
表紙を開く。
最初の頁に自分の名前。
その場で棚卸しの数字を書き始める。
ぱむちゃんは資料庫へ戻らなかった。
◇
「人物探索。本人確認。完了」
二が埋まる。
三つ目。
薄紙で包まれた、透明な測定器。
《配送口/至誠》
「最後は保護条件です。割れば、到着しても失敗です」
ぱむちゃんは測定器を胸へ抱えた。
◇
配送口までの通路は混んでいた。
空の台車。
積み上がった紙袋。
開く扉。
最短の中央通路が、一度だけ空く。
ぱむちゃんは入らなかった。
直後、横から保冷箱が滑り込む。
至誠ちゃんが声を上げた。
「その判断、続けてください!」
ぱむちゃんは壁際を回る。
速くない。
けれど薄紙には、新しい折れ目が増えない。
配送口で、至誠ちゃんは三つの紙袋と配送票を処理していた。
「私宛てですね! 受取地点を変えます!」
至誠ちゃんは棚の端を空ける。
受領用の浅い箱を引き出す。
「そこへ水平に!」
ぱむちゃんは測定器を箱へ滑らせた。
至誠ちゃんが反対側から受け止める。
二人の手が、同時に離れた。
薄紙を開く。
透明な測定器に、ひびはない。
「無傷です!」
ぱむちゃんが跳ねる。
「待ってください!」
ぱむちゃんが止まる。
至誠ちゃんは測定器ではなく、通路の中央を見る。
「さっき、近道が一度空きました!」
ぱむ。
「でも通らなかった!」
ぱむ。
「荷物を守るためですね!」
ぱむちゃんは返事の代わりに、自分の丸い身体で測定器を覆う真似をした。
至誠ちゃんが笑った。
「分かりました!」
それから、店の奥を指す。
「秩序ちゃんに、受領完了を伝えてください!」
ぱむちゃんが走り出す。
至誠ちゃんは次の紙袋を持った。
それでも一度、ぱむちゃんの背中を見た。
◇
三つ目の欄。
秩序ちゃんは受領記録を確認する。
《包装損傷なし》
《本人受領》
《迂回判断あり》
「保護。完了」
三つの空欄が埋まった。
ぱむちゃんは一、二、三を順に指した。
その隣に、まだ番号のない空欄が一つある。
配送口から至誠ちゃんの声。
「次の配送を確認します!」
ぱむちゃんの指が、空欄の上で止まった。
それから、声のした方へ向いた。




