第12話「持っていくひと」
昼前の厨房受取口に、紙袋が二つ並んだ。
同じ茶色。同じ大きさ。同じ折り方。
一つは緑の三角。
《四三番/奥カウンター》
もう一つは青い丸。
《三四番/窓側受取台》
「試します!」
至誠ちゃんは二つを動かさず、緑の三角だけを指した。
「四三番を、奥カウンターの受取係へ!」
ぱむちゃんは四三番を持ち上げた。
青い丸は、そのまま残る。
「私は後ろから見ます! 速さは評価しません!」
◇
角を曲がる前に、伝票を持ったスタッフが来た。
「三四番、できてます?」
ぱむちゃんの袋へ手を伸ばす。
ぱむちゃんは一歩下がった。
袋を、自分の背中側へ隠す。
「それですよね?」
ぱむちゃんは首を振る。
袋の緑の三角だけを前へ向けた。
スタッフが伝票を見る。
青い丸。
「あ。違う。私の、向こうだ」
厨房へ戻っていく。
至誠ちゃんは端末へ一行だけ入れた。
《要求されたが渡さず》
◇
押し扉の前は混んでいた。
皿。
台車。
空箱。
扉が開いても、人が続く。
至誠ちゃんは何も言わない。
ぱむちゃんは扉の脇にある返却棚へ四三番を一度置いた。
袋から手を離す。
そのままでは行かない。
人の流れを見る。
三人。
間。
二人。
長い間。
ぱむちゃんは次の長い間で袋を取り、扉の下端を丸い身体で押した。
先に袋を通す。
自分はそのあと、転がるように抜けた。
紙袋は傾かなかった。
「私と違う通り方ですね!」
ぱむ。
「でも、通せています!」
◇
奥カウンターには三人。
一人は皿を拭いている。
一人は端末を操作している。
一人は緑の三角がついた受取板を持っている。
「四三番、こっちです」
皿を拭いていた人が先に手を出した。
ぱむちゃんは渡さない。
カウンターの空いた場所へ袋を置く。
緑の三角を正面へ向ける。
それから三人を見る。
受取板を持った人が前へ出た。
「私です」
板を袋の横へ置く。
緑の三角。
緑の三角。
「四三番。受け取ります」
その人が袋を持ち上げる。
ぱむちゃんは、相手が持ったあとで袋から離れた。
◇
帰り道。
「速くはありませんでした!」
ぱむちゃんの足が少し速くなる。
「違います! 競争ではありません!」
止まる。
至誠ちゃんも止まった。
「私なら、もっと速く届けられます!」
端末を見せる。
《三四番の要求へ渡さず》
《混雑時に独自経路を選択》
《受取係を先着順で決めず》
《四三番、本人受領》
「速さとは別です!」
ぱむちゃんは端末ではなく、自分の空いた手を見る。
至誠ちゃんは少し考えた。
「持っていく人は、速い人とは限りません!」
厨房受取口へ戻る。
作業表の《担当未定》は、まだ残っていた。
その下に、至誠ちゃんが書く。
《仮説:持っていくひと》
「まだ仮説です! 次も見ます!」
新しい紙袋が置かれた。
白い四角。
ぱむちゃんは札を見る。
触れない。
至誠ちゃんの指も、まだ動いていない。
「そうです!」
至誠ちゃんが笑った。
「まだ、あなたへの依頼ではありません!」
ぱむ。
ぱむちゃんは白い四角から一歩下がった。
作業表の《仮説》だけが、そこに残った。




