第1話「遅くなりました」
バーガーは、十一時四分にできた。
《坂上団地》
《到着予定 十二時三十分》
ぱむちゃんが札を見る。
持たない。
紙袋は駅前便の箱へ入った。
ぱむ。
◇
十一時二十二分。
駅前集積所の壁には、昨日の地図が残っていた。
《パン屋裏 坂道》
自転車の運び手が読む。
「七十二段って、どこから数えるんだ」
パン屋の店員が紙袋へカバーを掛けた。
「着いたら本人に聞いてください」
雨が降り始めた。
◇
信号で止まる。
坂の途中で自転車を降りる。
チェーンが外れた。
運び手は歩道へしゃがむ。
指が黒くなる。
ぱむちゃんは少し離れて立っていた。
「持ってくれる?」
ぱむ。
「だよな」
チェーンを戻す。
もう一度、自転車を押した。
◇
十二時四十一分。
老人が扉を開ける。
「十一分」
「すみません」
「腹減ったよ」
紙袋を受け取る。
「前よりぬるいな」
老人が階段の下を見る。
「あれ。ぱむちゃんもいたの」
ぱむ!
「持ってくれれば早かったのに」
ぱむ。
老人は受領印を押した。
運び手が帰りかける。
「七十二段って、どこからですか」
「一番下から」
「やっぱり全部か」
◇
帰り道。
運び手は坂の手前で自転車を止めた。
ギアを一段落とす。
「明日はここで落とす」
黒い指でレバーを指した。
ぱむ!
◇
翌日。
十一時九分、出発。
雨はない。
パン屋裏の坂。
手前でギアを落とす。
今日は降りない。
七十二段の下で自転車を止め、紙袋を持って上がる。
十二時二十三分。
「今日は早いじゃん」
「七分」
「数えた?」
「七十二」
老人が笑った。
「合ってる」
受領印。
ぱむちゃんはいなかった。
◇
夕方。
運び手が駅前へ戻る。
昨日黒くなった爪に、まだ油が残っていた。
壁の地図へ鉛筆で書く。
《坂手前 ギア一段下げる》
《階段 七十二》
鉛筆を置く。
翌日の担当が、その地図を持っていった。




