第22話「できるけど、行きません」
朝の依頼は、一件だった。
《坂上団地 薬》
《希望 十時》
《薬局宅配 十四時》
《在庫 明朝まで》
ぱむちゃんが札を持つ。
坂上団地までなら、すぐだった。
道も知っている。
受取人も知っている。
紙袋は、手を伸ばせば届くところにある。
ぱむちゃんは札を配送箱へ戻した。
ぱむ。
◇
十時。
老人から電話が来た。
「今日はぱむちゃんじゃないの?」
世達ちゃんが受付記録を開く。
「薬局宅配で十四時予定です」
「四時間も違うのか」
「はい。ただ、薬は明朝まであります」
「そっか」
電話は切れた。
◇
ぱむちゃんは店にいた。
バーガーが完成する。
紙袋へ入れる。
近所への通常配達。
別のクルーが持っていく。
ぱむちゃんはトレーを重ねた。
◇
十二時。
雨が降った。
薬局宅配から連絡。
《到着予定 十四時三十分》
至誠ちゃんが札を見る。
「私なら今から行けば間に合います!」
ぱむちゃんを見る。
指は上げなかった。
「ただ、薬は切れません!」
ぱむ。
至誠ちゃんも札を置いた。
◇
十四時三十六分。
坂上団地。
宅配員が階段を上がってきた。
透明な雨合羽から水が落ちる。
薬の袋を濡らさないよう、胸元に抱えていた。
「お待たせしました」
老人が扉を開ける。
「ほんとに来た」
「遅れてすみません」
「いや、薬あるから大丈夫」
宅配員が息を整える。
「ここ、裏の坂から来ると近いんですね」
「裏?」
「パン屋さんに教えてもらいました」
老人が笑う。
「みんな知り合いになってくな」
受領印を押す。
《配送完了》
宅配員は雨合羽の袖で額を拭いて、階段を下りた。
◇
翌朝。
老人がゴミを出していた。
「あ、ぱむちゃん」
ぱむ!
「昨日、遅かったよ」
ぱむ。
「でも来た」
老人は薬局の宅配票を見せる。
裏に手書きの地図。
《パン屋裏 坂道》
「次もこれで頼むよ。急ぐ時だけ、そっちに聞く」
ぱむ!
◇
店へ戻る。
世達ちゃんが記録を更新していた。
《坂上団地 薬局宅配》
《実績 一》
《所要 四時間三十六分》
《受領 成功》
その下。
《経路追記 パン屋裏》
さらに下の一行へ、一本だけ線を引いた。
《代替不能》
ぱむちゃんは消えた文字を見る。
机の端には、昨日戻した札がある。
《坂上団地 薬》
ぱむちゃんは札を完了の束へ置いた。
外ではまだ雨が降っていた。




