第21話「なくした予備」
町工場の棚には、予備が一個あった。
工場長がその隣を測っていた。
「もう一個、置けるな」
作業員が古い伝票を持ってくる。
「前の仕入先、ここです」
工場長が電話する。
三回鳴った。
知らない声が出た。
『はい、東町クリーニングです』
「……すみません、番号を間違えました」
切る。
伝票を裏返す。
「会社、廃業してた」
棚の空いた一枠に、伝票を置いた。
ぱむちゃんはそれを見た。
◇
坂上団地。
老人は薬局でもらった紙を冷蔵庫へ貼った。
《宅配登録 翌日便》
「前は隣の人が取ってきてくれたんだけどね」
古い電話番号を押す。
『現在使われておりません』
「引っ越したって」
ぱむ。
「ぱむ便が来るようになってから、頼まなくなったから」
老人は受話器を置いた。
「今さらじゃなくて、もういないんだな」
冷蔵庫には、宅配登録の紙が残った。
◇
病棟。
看護師が棚へ《三日分》の札を貼った。
箱を一つ置く。
二つ目を持って止まる。
「入らない」
棚の半分を、吸引器の消耗品が埋めていた。
「これ、どこから来ました?」
「配送が安定してから、下の倉庫を空けた時です」
「戻せます?」
「下、今はリネンです」
二人で黙る。
《三日分》の札を剥がす。
《二日分》
貼り直した。
◇
駅前。
パン屋の店員が自転車を止めた。
「ここ、通れません」
地図では裏道だった。
目の前には金網。
《工事予定地》
向こう側に、以前使っていた道が見える。
ぱむちゃんは金網の前まで行く。
越えられる高さだった。
店員が地図を畳む。
「私、自転車ごとは無理です」
ぱむ。
二人で引き返した。
◇
迂回路は四十分長かった。
店員が店へ戻った時には、昼休みが終わっていた。
「食べてきて」
店主が言う。
「午後便あります」
「俺が行く」
「店は?」
「閉めない。配達だけ四十分遅らせる」
「苦情来ますよ」
「俺が取る」
店員は自転車の鍵を渡した。
その日は、店主が午後便を走った。
◇
三日後。
町工場へ、小さな箱が届いた。
遠い会社のラベル。
工場長が請求書を見て、口笛を吹く。
「高い」
「買います?」
「一個だけ」
棚の空いた枠へ箱を置く。
古い仕入先の伝票は、箱の下へ入れた。
坂上の老人には薬が翌日届いた。
病棟の棚には二日分。
パン屋の午後便は、前より四十分遅い時刻が壁に貼られた。
黄砂海からは、新しい運び手の料金表が届いた。
《通常》
《強風》
強風の方が高かった。
◇
閉店前。
世達ちゃんが復旧表を閉じた。
ぱむちゃんは町工場へ寄った。
棚には、新しい予備が一個。
その下に、古い伝票の端が見えている。
ぱむちゃんが引き出す。
電話番号。
もう一度、工場長がかけた。
『はい、東町クリーニングです』
「すみません」
切った。
工場長は伝票を棚へ戻した。
新しい箱を、その上へ置いた。
ぱむちゃんは箱を押さえた。
ぱむ。




