第18話「ぱむちゃんを増やせませんか」
提案書を持ってきたのは、町工場の工場長だった。
《配送担当の増員について》
「変なこと言ってるのは分かってる」
工場長は椅子に座らず、紙を机へ置いた。
「でも、うちだけじゃないんだろ。来るか来ないかで予定変えてるの」
世達ちゃんが紙を見る。
「増員自体は、すでに進めています。通常便、地域経路、クルー配送があります」
「それも知ってる」
工場長は二枚目を出した。
コピー屋で作った紙だった。
《ぱむちゃんと同じ配送ができる担当を増やせませんか》
ぱむ?
「昨日、あんたが行かなかった日も工場は回った」
工場長はぱむちゃんを見る。
「回ったけど、予定を組む側からすると、同じ人が二人いれば楽だと思った」
◇
理性ちゃんが茶を置いた。
「同じ、とはどこまでじゃ?」
「速さとか、行ける場所とか」
「判断は?」
工場長が止まる。
「……同じじゃないと困るのか?」
「それを決めるのは、わしではないのう」
ぱむちゃんは提案書を見る。
◇
午後。
坂上団地の老人が薬を受け取った。
今日は至誠ちゃんだった。
「ありがとう」
「受取人、確認しました!」
老人は病院の予約票を出しかける。
途中で戻した。
「これは病院に電話するんだった」
「はい!」
薬だけ受け取る。
至誠ちゃんは予約票を持ち帰らなかった。
◇
パン屋では、店主が自転車を二台並べていた。
一台は新しい。
一台は直した古い方。
「二台あれば、一台壊れても回れる」
店員が古い方へ箱を載せる。
「人は一人ですけど」
「午後はお前が乗るだろ」
「聞いてないです」
「今聞いた」
「時給上げてください」
店主が黙る。
「そこから?」
「そこからです」
ぱむちゃんは窓の外から二人を見る。
店主が財布を出した。
◇
夕方。
工場長がもう一度来た。
「考え直した」
提案書を返してもらう。
裏に一行足す。
《同じ判断をする必要はあるか》
「うちが欲しいの、ぱむちゃん二人じゃないかもしれない」
世達ちゃんが聞く。
「何が必要ですか」
「来なくても予定を組めること」
◇
世達ちゃんは配送表を広げた。
近距離。
通常便。
到達困難。
危険経路。
地域配送。
その横に、まだ空いている欄がある。
《代替不能》
工場長が指す。
「これを減らす方が先か」
「現時点では、その方が確認できます」
理性ちゃんが湯呑みを持つ。
「増やせるか分からぬものを二つに数えるよりは、数えられる道を一本ずつ増やす方がよかろう」
ぱむ。
◇
閉店前。
提案書には赤い印。
《保留》
工場長が書いた最後の一行は残っている。
《同じ判断をする必要はあるか》
その隣で、パン屋から新しい地域配送の登録が届いた。
《担当 二名》
《自転車 二台》
世達ちゃんは提案書と登録票を別々の束へ置いた。
ぱむちゃんは登録票だけ持ち上げた。
ぱむ!
提案書には触れなかった。




