第16話「代わりがいます」
朝。
パン屋の自転車が直った。
店主は最初の袋を荷台へ載せた。
《坂上団地 くるみパン 二個》
ぱむちゃんは店の窓から見る。
パン屋が手を上げる。
ぱむ!
自転車は走っていった。
◇
その十分後。
坂上団地の薬が配送口へ来た。
《予備 二日分》
《通常便 夕方》
至誠ちゃんが札を見る。
「私なら四十分です! 今日の分には間に合います!」
ぱむちゃんは袋を渡した。
◇
三十九分後。
老人が玄関を開ける。
「あれ。ぱむちゃんじゃない」
「今日は私です! 薬と受取人、確認しました!」
「ありがとう」
老人は薬を受け取る。
テーブルには、くるみパンが二個。
一個だけ皿に載っている。
「孫の分は?」
「明日まで取っとく」
至誠ちゃんは何も言わない。
老人が病院の予約票を出した。
「これ、ぱむちゃんが来る日にしたいんだけど」
至誠ちゃんは紙を見る。
「配送の受付はできます!」
一度止まる。
「通院日は、私が決めることではありません!」
「そうか」
老人は予約票を畳む。
「じゃあ病院に電話する」
◇
昼。
店へ戻った至誠ちゃんが受領票を置く。
《配送完了》
その横。
《通院日 本人確認へ》
ぱむちゃんは二枚を見る。
薬は届いた。
予定は持ち帰らなかった。
◇
午後。
新しい依頼。
《出口のない商店街》
《乾燥豆 二箱》
《本日中》
《通常経路 なし》
彷徨ちゃんが札を取る。
「行き先の名前より、前に戻れた場所を使いますねぇ。帰り道は帰る時に探します」
ぱむちゃんは袋を渡す。
◇
夕方。
受取人から電話。
『届きました』
世達ちゃんが時刻を書く。
「彷徨ちゃんは?」
『まだ店にはいません』
ぱむちゃんが顔を上げる。
◇
二時間後。
裏口が開いた。
彷徨ちゃんが冷蔵庫の裏から出てくる。
「あらあら。今日はこっちでしたねぇ」
服の裾に白い粉。
袋はない。
受領票だけ持っている。
《配送完了》
ぱむ!
◇
閉店前。
二件の受領票が並んだ。
至誠ちゃん。
《四十分》
彷徨ちゃん。
《帰着 二時間遅れ》
どちらも届いた。
その時、電話が鳴った。
黄砂海西岸。
『交換部品が必要です。観測機器は明日の昼まで持ちます』
世達ちゃんが通常経路を確認する。
「三日です」
ぱむちゃんが札を見る。
摩天ちゃんが横から風速記録を見る。
「明朝なら弱い区間がある。私が先を取る」
ぱむ。
「荷物は?」
「通常便を途中まで使う。最後だけ私が持つ」
ぱむ!
◇
翌朝。
荷物は通常便の車に載った。
摩天ちゃんは先に出た。
ぱむちゃんは行かなかった。
昼前。
《黄砂海西岸 受領》
《観測機器 停止なし》
◇
三枚の受領票。
坂上団地。
出口のない商店街。
黄砂海西岸。
全部、ぱむちゃん以外が運んだ。
世達ちゃんはまとめの欄を作らなかった。
ぱむちゃんは三枚を一枚ずつ完了の束へ置いた。
最後に、昨日の町工場の札が見えた。
《ぱむ いかなかった》
その横へ、今日の三枚を置く。
どれにも、《ぱむ》とは書かなかった。




