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第11話「予備はいりません」


 配送口の壁に、新しい紙が貼られていた。


《予備を残してください》


 世達ちゃんの字。


 その下。


《ぱむ便は毎回の到着を保証しません》


 ぱむちゃんは読む。


 ぱむ。


 理性ちゃんは茶を一口飲んだ。


「昨日の結果じゃな」


 ◇


 坂上団地。


 薬箱には二日分。


 女が蓋を閉じる。


「うちは増やしたよ」


 ぱむ!


「一回遅れたからね」


 父親が奥から言う。


「三日分でもいいぞ」


「飲んだか分かんなくなるでしょ」


「じゃあ二日」


 ぱむちゃんが袋を渡す。


 棚には昨日より一列多く薬が残った。


 ◇


 町工場。


 予備棚に部品が一個。


 工場長が指で叩く。


「これ以上は置かない」


 ぱむ。


「昨日止まった分と、在庫代を比べた」


 紙を見せる。


 数字が並んでいる。


「一個が一番安い」


 理性ちゃんが覗く。


「ふむ。昨日の失敗を見て、全部戻したわけではないのじゃな」


「戻したら、今度は在庫で損するからな」


 ◇


 病棟。


 看護師は壁の紙を読んだ。


《予備を残してください》


「分かってます」


 棚を開く。


 半分。


「でも、うちは増やしてません」


 ぱむ。


「昨日、届かなくても足りました」


 隣の病棟から借りられる物もある。


 期限切れで捨てる物も減った。


「一回失敗したから全部戻す、も違うと思うんです」


 理性ちゃんが棚を見る。


「ふむ。こちらも筋は通る」


 ◇


 午後。


 商店街のコピー屋。


 受付用紙の横に、PANDEMONIUMの注意書きがコピーされていた。


《予備を残してください》


 その下に、店主が勝手に一行足している。


《必要量は各自で判断》


「これでいい?」


 ぱむちゃんが見る。


 理性ちゃんが先に答える。


「わしらが決める量ではないからの」


「じゃあ貼っとく」


 店主は二十枚コピーした。


 ◇


 夕方。


 新しい依頼人が来た。


 小さな美容室。


「カラー剤、今日中にお願いできますか」


 通常便は明日の朝。


 店には同じ色が一本だけ残っている。


 世達ちゃんが確認する。


「本日の予約は何件ですか」


「一件」


「残量で足りますか」


「足ります」


 女は少し笑った。


「でも、なくなるのが怖くて」


 ぱむちゃんは依頼票を見る。


《遅れた場合》


 女が自分で書く。


《明日の朝まで在庫〇》


 ぱむちゃんは紙袋を持たなかった。


「ですよね」


 女は紙を畳む。


「じゃあ普通ので頼みます」


 ◇


 その後ろに、もう一人いた。


 古いアパートの管理人。


「うちは予備を置けないんだ」


 給水ポンプの制御部品。


 棚に同型なし。


 通常便、二日。


「壊れたら水が止まる。でも部品は高い。何年使わないか分からない」


 理性ちゃんが箱を見る。


「ふむ。置かぬ理由もあるのう」


 管理人は受付票を出す。


《故障時のみ依頼》


 ぱむちゃんは受け取った。


 ◇


 閉店後。


 壁の紙はそのままだった。


《予備を残してください》


 その下に、誰かが鉛筆で書いていた。


《どれくらい?》


 消してある。


 代わりに、コピー屋の紙が一枚挟まっていた。


《必要量は各自で判断》


 理性ちゃんはそれを見て、何も足さなかった。


 ぱむちゃんも、空欄のまま見た。

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