第9話「今日も全部届きました」
朝の配送口に、二十八件。
床の三本のテープでは足りなくなっていた。
世達ちゃんが壁へ札を移す。
ぱむちゃんは一番上を取った。
ぱむ!
◇
八時十二分。
保育園。
調理員は門の前に立っていた。
ぱむちゃんを見る前に、腕時計を見る。
「十二分」
ぱむ?
「昨日もそのくらいだったから」
箱を受け取る。
中には卵不使用の食材。
「今日は十二人分あるよ」
ぱむ!
献立表の端に、鉛筆で書かれていた。
《八時十五分まで ぱむ便》
◇
八時二十六分。
坂上団地。
惣菜屋の女が父親の部屋から出てくる。
「ちょうど薬がなくなるとこ」
ぱむちゃんが袋を渡す。
「前は三日分残して頼んでたんだけどね」
薬箱を開く。
空。
「余ると父が二回飲んじゃうこともあるし。毎日来るなら、この方がいい」
ぱむちゃんは空の薬箱を見る。
ぱむ。
「来るでしょ?」
ぱむちゃんは受領票を差し出した。
女は少しだけ笑う。
「返事はしないんだね」
署名する。
◇
八時四十分。
町工場。
機械の横に、予備部品の棚。
空だった。
工場長が新しい部品を受け取る。
「昨日十五分止まっただろ」
ぱむ。
「でも十二人帰さずに済んだ。だったら予備二個も寝かせる必要ないと思ってさ」
機械へ取り付ける。
動く。
「今日も間に合った」
ぱむちゃんは空の棚を見る。
◇
十一時。
病棟への扉は出なかった。
夢幻ちゃんと十五分待つ。
出ない。
「昨日と同じにはならないねえ」
ぱむ。
依頼票を戻す。
現地では、看護師が残っていた備品を使った。
一件、届かなかった。
必要なものは足りた。
◇
昼。
パン屋の店主が依頼票を返しに来た。
「午後の分、もういいよ」
店先に新しい自転車。
「最近、注文が増えたから買った」
荷台には二つの箱。
「ぱむちゃんが全部やるより、近所は俺が回った方が早いだろ」
ぱむ!
店主は自転車で出ていく。
◇
午後四時。
老人ホーム。
窓際の老人が、もう椅子に座っていた。
「来た来た」
ぱむ!
「今日は孫の写真だ」
受け取る。
隣の職員が時計を見る。
「四時で取っておいて正解でしたね」
老人は写真を見る。
「遅れても、俺はここにいるけどな」
職員が笑う。
「そうでした」
予約表の《ぱむちゃん 16:00》に一本線を引く。
消さない。
◇
閉店前。
二十八件。
ぱむちゃんが届けた二十一件。
通常便、四件。
別経路、一件。
不要、一件。
未受領、一件。
世達ちゃんが最後の欄を見る。
「未受領は病棟です。必要品は現地在庫で対応済みです」
ぱむ。
壁の数字は、全部〇にはならなかった。
それでも、誰も今日を失敗とは言わなかった。
◇
店の外。
保育園では、明日の献立表にも八時十五分までの線が引かれる。
坂上団地では、薬箱に一日分だけ入る。
町工場では、空いた予備棚に別の工具が置かれる。
老人ホームでは、明日の午後四時も椅子が空けられる。
パン屋だけが、自転車の鍵を閉めた。
◇
PANDEMONIUM BURGER。
ぱむちゃんが空の配送箱を閉じる。
明日の箱には、もう依頼票が入っていた。
その一番上。
《坂上団地 薬》
《遅れた場合》の欄には、前より長い文字が書かれていた。
《予備なし》




