第7話「一番困っているところへ」
朝八時。
床の三本のテープの前で、二人が言い争っていた。
「こっちは薬なんです」
「うちは今日止まったら、十二人帰すことになる」
坂上団地の女。
町工場の男。
二人とも、前にぱむちゃんへ頼んだことがある。
間に、保育園の調理員が箱を抱えて立っていた。
「すみません。先に、これだけ見てもらえますか」
箱の横。
《卵不使用 十二食》
世達ちゃんが三枚の紙を机へ置く。
「順番に確認します」
◇
薬。
昼まで。
通常便は十三時。
「一回飛ばすことになる」
女が言う。
「父、昨日も忘れたから」
町工場の男が口を閉じた。
◇
冷却部品。
十一時まで。
通常便は十二時半。
「止まれば今日の製造は終わりです」
「薬よりそっちが先なの?」
女が言う。
「人数なら、うちの方が多い」
「人数で決めるんですか」
世達ちゃんは書かない。
◇
保育園。
給食は十一時半。
通常の代替食はある。
十二人分。
調理員が箱を開ける。
中は十一個。
「一人分だけ、卵が駄目な子のが足りないんです」
女が見る。
町工場の男も見る。
「その子だけ、別の時間に食べれば?」
男が言う。
調理員は少し黙った。
「できます」
箱を閉じる。
「でも昨日、その子に『明日はみんなと同じのあるよ』って言っちゃって」
◇
四枚目が、後ろから差し出された。
時計店の店主だった。
「俺のは最後でいい」
交換工具。
「三件断るけど、明日に回せる」
自分で札を《今日動く理由あり》から外す。
「困るけど、壊れはしない」
ぱむちゃんはその手を見る。
◇
四枚を床へ置く。
誰も黙らない。
「薬」
「部品」
「子供」
それぞれ、自分の理由を言う。
ぱむちゃんは保育園の札を持った。
ぱむ!
女が息を吐く。
町工場の男は時計を見る。
至誠ちゃんが二枚を取る。
「通常便へ連絡します! 薬は十三時より前へ動かせるか確認します! 部品は別便を探します!」
◇
保育園。
調理員が箱を受け取る。
十二個。
子供たちのトレーへ同時に置かれる。
一つだけ違う包装。
隣の子が見る。
「それも同じハンバーグ?」
「うん」
食べ始める。
ぱむちゃんは扉の外へ出た。
◇
戻る途中、電話が入る。
薬は十二時四十分へ前倒し。
町工場の部品は十一時十五分。
十五分、機械が止まった。
十二人は帰らなかった。
時計店は一件を翌日にした。
全員の困ることが、なくなったわけではなかった。
◇
夕方。
坂上団地の女が来た。
空の薬袋を持っている。
「届いた」
ぱむ!
「でも、次は薬の方を選んでよ」
ぱむちゃんを見る。
「父だから」
ぱむ。
「分かってる。私が言ってるだけ」
その後ろから、町工場の男が顔を出す。
「俺も次は部品って言いますよ」
女が笑う。
「でしょうね」
床のテープの前で、二人は朝ほど離れて立っていなかった。
世達ちゃんが新しい札を置く。
《遅れた場合》
その横に、空欄を一つ。
《依頼人が守りたいもの》
ぱむちゃんは、そこには何も書かなかった。




