第6話「配送網を作ります」
開店前。
配送口の前に、列ができていた。
八人。
全員、コピー屋の用紙を持っている。
一番前は坂上団地の惣菜屋の女だった。
「ごめん。これ、うちの店の分じゃないの」
後ろの老人を指す。
「この人、書き方が分からないっていうから連れてきた」
老人は小さな箱を抱えていた。
「孫の補聴器。修理屋が今日だけ来るんだ」
その後ろ。
「私は病院から聞きました」
「私は商店街」
「受付、ここでいいんですよね?」
ぱむちゃんは列の最後を見る。
扉の外まで続いていた。
◇
「床を空けます」
秩序ちゃんが言った。
昨日までの紙を拾い、机へ移す。
世達ちゃんが一枚ずつ複写する。
「原本を返すものと、預かるものを分けます。なくしたら配送以前の問題です」
ぱむ。
理性ちゃんは列を見る。
「閉めても、別の箱が置かれるだけじゃろうな」
昨日の段ボール箱はもうない。
代わりに人が並んでいる。
◇
最初の五件を確認する。
老人の補聴器。
通常便は明日。
修理屋は今日だけ。
残す。
二件目。
薬局の箱。
通常便が四十分後。
戻す。
三件目。
写真。
明日の誕生日。
通常便は今夜。
戻す。
四件目。
交換部品。
機械停止中。
代替なし。
残す。
五件目。
手紙。
期限は書いていない。
「急ぎです」
依頼人が言う。
世達ちゃんが顔を上げる。
「何が起きる時刻ですか」
「……起きる?」
「遅れた場合です」
男は封筒を見る。
「たぶん、何も」
少し黙る。
「でも今日、謝りたいんです」
世達ちゃんは《期限なし》と書かない。
《今日会いたい》
と書いた。
◇
昼前。
列は十一人になった。
秩序ちゃんが床へ細いテープを貼る。
一本目。
《確認前》
二本目。
《通常経路あり》
三本目。
《今日動く理由あり》
「受付制度ではありません」
惣菜屋の女が言う。
「でも並ぶ場所はここでしょ?」
秩序ちゃんが止まる。
「……現状は」
テープを貼る。
◇
ぱむちゃんは補聴器を持った。
次に交換部品。
三枚目は手紙だった。
至誠ちゃんが手紙を見る。
「経路は普通です! 歩いて十五分!」
ぱむちゃんは札を見る。
《今日会いたい》
ぱむ!
三件を持った。
◇
夕方。
補聴器は修理屋へ届いた。
部品で機械は再起動した。
手紙は、男自身が届けた。
ぱむちゃんが相手の家まで運んだのは、男の方だった。
玄関の手前で降ろす。
「ここからは、自分で行きます」
ぱむ!
男は封筒を持って歩いた。
◇
店へ戻る。
床のテープは残っていた。
壁には、世達ちゃんが今日使った紙が留めてある。
《通常経路》
《遅れた場合》
《今日動く理由》
誰も《配送網》とは書いていない。
そこへ商店街の女が入ってきた。
「配送網の相談って、ここでいいですか?」
秩序ちゃんが壁を見る。
理性ちゃんが茶を飲む。
ぱむちゃんは、床の三本のテープを見た。
朝には、一本もなかった。




