第2話「配送できますか」
坂上団地の三枚を読んでいる横へ、白い封筒が置かれた。
注文票ではない。
《市立病院 眼科》
中に眼鏡ケース。
「これも、お願いできますか」
昨日の惣菜屋の女だった。
エプロンのまま、息を切らしている。
「父が診察に持っていくの忘れて。私、昼まで店を抜けられなくて」
ぱむちゃんは眼鏡を見る。
女は続けた。
「普通の配送じゃないのは分かってる」
昨日、自分で書いた紙を出す。
《無理なら断ってください》
「だから、聞くだけ」
◇
秩序ちゃんが眼鏡ケースを受け取らずに確認する。
「病院の売店に代用品は?」
「度が合わないって」
「ご家族で動ける方は?」
「夕方までいない」
「診察時刻は?」
「十一時二十分」
壁の時計。
十時五十八分。
理性ちゃんが湯呑みを置く。
「ふむ。昨日の団地とは違う話じゃの」
ぱむ。
「同じなのは、ぱむちゃんに頼みに来たことだけじゃ」
ぱむちゃんは眼鏡ケースを持った。
ぱむ!
◇
病院。
眼科待合。
老人は番号札を膝に置いていた。
呼び出し表示は《47》。
老人の札は《49》。
「来たのかい」
ぱむ!
眼鏡をかける。
壁の表示を見る。
「見えた」
《48》
老人が笑う。
「間に合ったな」
ぱむちゃんは一歩下がる。
「娘に、ありがとうって言っといて」
ぱむ!
◇
店へ戻ると、女はレジにいた。
客へ弁当を渡している。
ぱむちゃんを見つける。
ぱむちゃんが親指を立てる。
女も立てた。
その後ろに、知らない男がいた。
小さな機械部品を持っている。
「あの」
男がぱむちゃんを見る。
「ここ、急ぎの物も運んでもらえるって聞いたんですが」
女が振り返った。
「誰から?」
「病院の受付で」
女の親指が下がる。
「いや、私も今日初めて頼んだんだけど」
◇
男の部品は、町工場の冷却装置用だった。
止まっている。
通常の取引先便は二時間後。
復旧予定は、その三十分後。
「待てます」
男は部品を鞄へ戻した。
「聞いたら、すぐ行けるのかと思って」
ぱむ。
「すみません」
男は帰った。
◇
夕方。
配送口の横に、誰かが段ボール箱を置いた。
手書き。
《急ぎの配送はこちら》
中には七枚。
鍵。
封筒。
薬。
部品。
写真。
上着。
知らない住所の紙。
秩序ちゃんが箱を見る。
「誰が設置を許可しましたか」
誰も答えない。
ぱむちゃんが一枚持ち上げる。
裏に、小さく書いてあった。
《病院で聞きました》
別の紙。
《坂上団地の人から》
もう一枚。
《商店街》
箱を作った人の名前だけが、どこにもなかった。




