第1話「ぱむちゃんなら届きます」
朝、配送口に見覚えのある字があった。
《坂上団地 一階》
その下。
《この前は車椅子ありがとうございました》
この前、車椅子を運んだ時に会った隣の女の注文だった。
ぱむちゃんは札を読む。
《三号棟 四〇六号室へ弁当》
本人宛ではない。
惣菜屋から、同じ団地の老人へ。
「うちの店、四〇六だけ配達を断ってたの」
女は惣菜屋のエプロンを着けていた。
「階段が途中から同じ階になるから」
ぱむ。
「昨日、母の車椅子を下ろしてもらった話を店でしたらね」
少し言いにくそうに笑う。
「店長が、じゃあ聞いてみようって」
紙袋を差し出す。
「無理なら断って。そこまで含めて聞くって約束したから」
ぱむちゃんは袋を持った。
ぱむ!
◇
一階。
二階。
三階。
踊り場。
三階。
ぱむちゃんが止まる。
上を見る。
《3》
下を見る。
《3》
壁にも《3》。
ぱむ。
上る。
◇
六回目。
同じ消火器。
九回目。
同じ窓。
十二回目。
窓の外に、さっきまでなかった四〇六号室の表札が浮いていた。
廊下がそこへ続いている。
ぱむちゃんは歩く。
呼び鈴。
「はい?」
老人が扉を開けた。
紙袋を見る。
「来た」
ぱむ!
「半年ぶりだよ、この店の弁当」
ぱむちゃんが止まる。
老人は袋を受け取った。
《配送完了》
「前の配達の人、三階を七回回って帰っちゃってね」
笑う。
「仕方ないよ。私だって下りる時はたまに二日かかる」
ぱむ。
「今日はここまでで大丈夫」
ぱむちゃんは一歩下がった。
◇
帰りは二回曲がっただけで一階だった。
団地の入口。
惣菜屋の女が待っていた。
「届いた?」
ぱむ!
電話をかける。
「店長。四〇六、いけた」
少し間。
「うん。でも毎日頼めるかは、まだ聞いてない」
ぱむちゃんを見る。
「今日はいけた、だけ」
ぱむ!
◇
翌朝。
配送口に三枚あった。
パン屋。
薬局。
花屋。
全部、坂上団地。
備考は少しずつ違う。
《四〇六号室。昨日届いたと聞きました》
《通常便が戻った時だけ相談》
《無理なら断ってください》
ぱむちゃんは三枚を並べた。
昨日、届いた弁当は一つだった。
今日は、その一つを見ていなかった店から三枚来ていた。
至誠ちゃんは順番を指ささない。
「どれから見ますか!」
ぱむちゃんは、一枚ずつ札を読んだ。




