第22話「また明日」
百二十九番は、普通の家だった。
女性が紙袋を受け取る。
《配送完了》
「ありがとう」
ぱむ!
女性は片手で袋を持ち、もう片方で鞄を探った。
「あれ」
鍵が出てこない。
ぱむちゃんは一歩下がる。
女性を見る。
手は出さない。
「大丈夫。たぶん底」
鞄の中身を一つずつ玄関脇へ置く。
財布。
ハンカチ。
小さな薬袋。
鍵。
「あった」
女性が笑う。
「今日は自分でできた」
ぱむ。
女性が手を振る。
ぱむちゃんも振った。
曲がり角で、一度だけ振り返る。
玄関はもう閉まっていた。
戻らなかった。
◇
店。
百三十番の注文票には、備考が長かった。
《ぱむちゃん希望》
《届けたあとも、最後までお願いします》
その下に、別の筆跡。
《一人暮らし。最近転倒あり》
さらに。
《家族は遠方》
至誠ちゃんが読む。
「私は、受けてもいいと思います!」
ぱむちゃんを見る。
「でも、これは私の意見です!」
紙袋には触れない。
ぱむちゃんは注文票を持ち上げた。
《最後までお願いします》を指で隠す。
残る。
《百三十番》
住所。
受取人。
転倒歴。
遠方の家族。
指をずらす。
文字は全部戻る。
◇
ぱむちゃんは紙袋を持った。
ぱむ!
「お願いします!」
◇
百三十番。
老人が扉を開けた。
「来た来た」
紙袋を受け取る。
《配送完了》
ぱむちゃんは一歩下がる。
老人は杖を壁へ立て掛けた。
「家族が心配性でね」
注文票の写しを見せる。
「最後まで、なんて書いたらしい」
笑う。
「最後って、どこだろうね」
ぱむ。
「食べ終わるまで?」
ぱむ。
「転ばなくなるまで?」
ぱむ。
「死ぬまで?」
ぱむちゃんは動かない。
老人も少し黙った。
「それは長いな」
◇
老人は杖を取り直した。
「今日は、台所まで持っていくのを見ててくれる?」
ぱむ!
歩く。
一歩。
二歩。
敷居。
老人の足が少し止まる。
ぱむちゃんの手が上がる。
老人が杖をつく。
越える。
「大丈夫」
ぱむちゃんの手が下がる。
台所の机へ紙袋が置かれた。
「ここまで」
ぱむ。
「明日は来なくていいよ」
ぱむ。
「また頼みたくなったら、また頼む」
ぱむ!
◇
店へ戻る。
百三十番の裏。
ぱむちゃんは書く。
《台所まで 見た》
そこで止めた。
《最後まで》は写さない。
至誠ちゃんも何も足さない。
翌朝。
配送口に百三十一番が置かれた。
普通の紙袋。
普通の住所。
備考は空欄。
ぱむちゃんは札を読む。
両手を出す。
ぱむ!




