第21話「お届けの、そのあと」
百二十四番は、坂上団地の一階だった。
玄関の前に、女が二人いた。
一人は受取人。
もう一人は、隣の棟から来たらしい。買い物袋を提げている。
「来た」
受取人が笑った。
「この子。この前話した配送の子」
ぱむちゃんは紙袋を持ったまま止まる。
「荷物置いて終わりじゃないんでしょ?」
隣の女が覗き込んだ。
ぱむ。
受取人が札を見せる。
「百二十四番、私です」
ぱむちゃんは先に紙袋を渡した。
《配送完了》
◇
「それでね」
受取人が玄関の奥を指した。
廊下に、畳んだ車椅子がある。
「母を病院へ連れていくんだけど、これ階段の下までお願いできる?」
ぱむちゃんは車椅子を見る。
階段を見る。
受取人を見る。
両手を出す。
ぱむ!
「助かる」
◇
三段目で、後ろから声がした。
「じゃあ私の荷物も頼める?」
隣の女だった。
買い物袋を二つ持ち上げる。
「同じ一階まで」
ぱむちゃんは止まる。
車椅子を持っている。
女を見る。
袋を見る。
首を横に振った。
「え?」
ぱむ。
「こっちは駄目なの?」
ぱむちゃんは車椅子を一段下ろす。
受取人が階段の上から言った。
「私が頼んだからじゃない?」
「でも、届けた後も手伝ってくれるって」
「何でも、とは言ってないよ」
ぱむちゃんは車椅子を下ろす。
隣の女は少し黙った。
それから自分の袋を持ち直した。
「……そりゃそうか」
◇
一階。
受取人の母親が杖をついて待っていた。
「ここまでで大丈夫」
ぱむちゃんは車椅子から手を離す。
ぱむ。
「ありがとう」
隣の女も階段を下りてくる。
買い物袋は自分で持っている。
「ねえ」
ぱむちゃんが振り返る。
「今度、うちも配送頼んでいい?」
ぱむ!
「その後の手伝いは、その時に聞く」
ぱむ!
◇
店へ戻ると、至誠ちゃんが次の紙袋を持っていた。
「百二十五番、十二時までです!」
ぱむちゃんは受領票を書く。
至誠ちゃんは袋を差し出さない。
時計を見る。
ぱむちゃんを見る。
待つ。
ぱむちゃんが書いた。
《車椅子 一階まで》
その下に、少し空けてもう一行。
《別の荷物 持たなかった》
票を置く。
そこで至誠ちゃんが紙袋を差し出した。
「次、お願いします!」
ぱむ!
◇
夕方。
注文票が一枚増えた。
《坂上団地 一階》
備考。
《隣の人から聞きました》
さらに小さな字。
《受領後に頼みたいことあり。無理なら断ってください》
ぱむちゃんはその一行を見る。
至誠ちゃんも見る。
「評判が、条件つきになりました!」
ぱむ。
昨日まで広がっていたのは、
《届けた後も手伝ってくれる》
だった。
今日から、その後ろに一つ増えた。
《頼んで、断られることもある》
新しい紙袋が配送台へ置かれる。
ぱむちゃんは、すぐには持たなかった。
札を読んでから、両手を出した。




