第19話「迷って、戻る」
百十九番。
河川敷の管理小屋。
「ありがとう」
若い管理員が紙袋を受け取った。
《配送完了》
「今日は夜まで水位計の点検」
ぱむ。
「昨日の雨で、裏の杭が一本流れたんだ」
男は窓の外を指す。
赤い測量杭が三本。
一本だけ遠い。
「まあ、明るいうちに終わるよ」
ぱむちゃんは一歩下がる。
帰った。
◇
二時間後。
店の電話が鳴った。
「河川管理です。川瀬、そちらへ行ってませんか」
至誠ちゃんが百十九番を開く。
「受取人の方ですか!」
「そう。携帯も上着も小屋にある。点検表だけなくて」
ぱむちゃんが配送台から顔を上げた。
「最後に見たの、そちらの配送員ですよね」
ぱむちゃんはもう入口へ向かっていた。
◇
小屋。
紙袋は机の上。
携帯。
上着。
点検表だけない。
窓の外。
赤い杭。
三本。
ぱむちゃんは遠い一本を見る。
彷徨ちゃんが土手から下りてきた。
「あらあら。今度は人が目印から外れましたねぇ」
ぱむ。
小屋の裏へ回る。
泥に靴跡。
赤い杭まで続いている。
そこで消える。
彷徨ちゃんが杭の横へ立つ。
「ここをゼロにしますねぇ」
二十三歩、右。
二十三歩、戻る。
杭がない。
小屋もない。
代わりに細い道が一本あった。
「あら」
彷徨ちゃんは笑った。
「戻ったのに戻れてませんねぇ」
ぱむちゃんは細い道を見る。
「帰り道は、帰る時に探しましょうか」
ぱむ!
◇
河原の裏側のような場所。
川瀬が赤い杭を抱えて座っていた。
足元に点検表。
「……配送の子?」
ぱむ!
「杭を見に来ただけなんだ」
川瀬は立とうとした。
顔をしかめる。
右足首が腫れている。
ぱむちゃんが近づく。
「歩ける。たぶん」
立つ。
一歩。
膝が落ちる。
ぱむちゃんが支えた。
「ごめん」
ぱむ。
彷徨ちゃんが後ろを見る。
細い道は消えていた。
「三人になったので、さっきの道はもう二人用かもしれませんねぇ」
「そんな道あるのかよ」
「あったんですよぉ。さっきまで」
◇
帰りは四十分かかった。
川瀬を真ん中にして歩く。
ぱむちゃんが右。
彷徨ちゃんが左。
同じ道は使えない。
水の音が大きくなる方へ進む。
途中で橋脚の下へ出た。
道路へ上がる階段。
川瀬が足を上げる。
「待って」
ぱむちゃんが止まる。
「俺も上る」
ぱむ。
三人で一段ずつ上がった。
◇
管理小屋。
同僚が走ってくる。
「何やってんだ!」
「杭」
川瀬が抱えていた赤い杭を見せる。
「持って帰ってきた」
「お前を探してたんだよ!」
川瀬が黙る。
それから杭を地面へ置いた。
「……そっちか」
ぱむちゃんは杭を見る。
川瀬を見る。
紙袋は小屋の机に残ったままだった。
◇
翌日。
百二十番へ向かう途中、河川敷を通る。
赤い杭は三本とも小屋の壁に立て掛けられていた。
川瀬は椅子に座り、足首に包帯を巻いている。
「今日は行かない」
ぱむ。
「杭より俺を先に戻せって怒られた」
少し笑う。
「次はそうする」
ぱむちゃんは百十九番の受領票を出さなかった。
紙袋を持ったまま、赤い杭の前を通り過ぎた。




