第18話「終わったものを持っていく」
百十八番には、バーガーがなかった。
小さな木箱。
《届け先 青嶺墓地》
《受取人 空欄》
ぱむちゃんは至誠ちゃんを見る。
「依頼人の指定は、墓地までです!」
ぱむ。
「受領者は確認できません!」
木箱の角は新しい。
底だけが擦れている。
ぱむちゃんは抱えた。
◇
墓地の管理人は、箱を見るなり帽子を取った。
「それ、まだ来るのか」
ぱむちゃんが止まる。
「三年前にも同じ箱が来た」
管理人は帳面を開く。
五年前。
三年前。
一年前。
同じ墓区画。
差出人は毎回空欄。
「前のは全部、ここで預かった。でも今回は」
帳面を閉じる。
「もう預かれない」
ぱむ。
「墓じまいしたんだ。先月」
◇
指定された区画には、墓石がなかった。
四角い色の違う土だけが残っている。
端に小さな札。
《改葬済》
涅槃ちゃんがしゃがむ。
「ここで終わったみたい」
ぱむちゃんは木箱を見る。
「届け先だった場所は残ってる。でも、受け取る場所じゃなくなった」
ぱむ。
万寿ちゃんが土の縁を見る。
「穴を埋めても、違う色は残るのね」
木箱には触れない。
「無かったことにしない方が綺麗だわ」
◇
木箱の底に薄い紙が貼られていた。
《ここへ》
矢印。
墓石があったはずの右脇を指している。
ぱむちゃんはそこへ箱を置いた。
端末は鳴らない。
一分。
五分。
十分。
《配送完了》は出ない。
雨が一滴、木箱の蓋へ落ちた。
ぱむちゃんが手を伸ばす。
蓋を庇う。
もう一滴。
手を引いた。
◇
「持って帰る?」
涅槃ちゃん。
ぱむちゃんは首を横に振る。
「ここで待つ?」
首を横に振る。
管理人が遠くから傘を持ってきた。
「箱は明日の朝まで置くよ」
ぱむちゃんを見る。
「その後は、こっちで片づける」
ぱむ。
「それでいい?」
ぱむちゃんは木箱を見る。
管理人を見る。
頷いた。
◇
翌日。
ぱむちゃんは配送の途中で墓地の前を通った。
入らなかった。
管理小屋の軒先に、昨日の木箱があった。
蓋は開いている。
中には何もない。
管理人が乾いた箱を畳んでいた。
ぱむちゃんは門の外で止まる。
管理人が気づく。
「終わったよ」
ぱむ。
「中身は、前の箱と同じだった」
ぱむちゃんは聞かない。
管理人も言わなかった。
畳んだ木箱が資源回収の束へ入る。
万寿ちゃんは、その形を残そうとしなかった。
◇
店。
百十八番。
《受領確認なし》
ぱむちゃんは裏に書く。
《指定場所 改葬済》
《管理人へ引継ぎ》
そこで鉛筆を置いた。
《配送完了》は書かなかった。
《失敗》も書かなかった。
木箱はもうなかった。
空欄だけが、受領票に残った。




