第17話「同じ人ですか」
百十七番。
《受取人 川瀬ミナ》
ぱむちゃんは住所を見て、走るのをやめた。
知っている家だった。
前に来た時、川瀬ミナは長い髪だった。
玄関には赤い靴。
声は高かった。
今日は、短い髪の人が出てきた。
黒いシャツ。
低い声。
「川瀬ミナです」
ぱむちゃんは札を見る。
顔を見る。
もう一度、札を見る。
「身分証、いる?」
ぱむ。
差し出されたカード。
《川瀬ミナ》
住所も一致。
ぱむちゃんは紙袋を渡した。
《配送完了》
◇
「前にも来たよね」
ぱむちゃんが止まる。
川瀬は古い受領票を持ってきた。
《次に来た時、重い箱を下ろすのを手伝って》
以前の筆跡。
玄関の奥には大きな段ボール箱。
「これ」
ぱむちゃんは箱を見る。
古い受領票を見る。
川瀬を見る。
「覚えてる?」
ぱむ。
「じゃ、お願い」
ぱむちゃんは動かなかった。
◇
箱の側面には太い油性ペン。
《ミナ 高校》
《ミナ 二十代》
小さな字で、いくつも年代が書かれている。
川瀬が蓋を開けた。
赤い靴。
長い髪を束ねていた飾り。
古い制服。
写真立ては伏せられている。
「前の私のもの」
ぱむちゃんは赤い靴を見る。
玄関を見る。
今日は別の靴がある。
「預けることにした」
箱を閉じる。
「前に頼んだ時は、捨てるつもりだったけど」
ぱむちゃんの身体が少し動いた。
「今は捨てたくない」
古い受領票が、川瀬の手の中で折れる。
◇
輪廻ちゃんが門の外から箱を見た。
「前の約束は残ってる」
ぱむ。
「でも、前の行き先はもう違う」
川瀬が笑った。
「そう。ゴミ置き場じゃなくて、駅の保管庫」
ぱむちゃんは古い票を指す。
《下ろす》
それから川瀬を指す。
「今の私が頼む」
川瀬は古い票を二つに破った。
「これじゃなくて」
破片を自分のポケットへ入れる。
「今、箱を駅まで運ぶのを手伝って」
ぱむ!
◇
二人で箱を持つ。
ぱむちゃんが前。
川瀬が後ろ。
階段を一段。
二段。
「待って」
止まる。
「持ち方変える」
ぱむ。
川瀬が手を掛け直す。
「いいよ」
また進む。
古い約束では、ぱむちゃん一人が下ろすはずだった。
今日は二人で運んだ。
◇
駅の保管庫。
箱を置く。
「ありがとう」
ぱむ!
川瀬が預かり票を受け取る。
「半年後の私が、また決める」
ぱむちゃんは箱を見る。
「その時は、今と違うかもね」
ぱむ。
輪廻ちゃんは保管庫の番号だけ記録した。
「前の私が触ったかは分からない。今の私は触ってない、って時あるでしょ」
ぱむ。
「人も、前と今を混ぜない方がいい時ある」
帰り道。
ぱむちゃんは新しい受領票の裏に書いた。
《今日、頼まれて駅まで》
古い約束は書き写さなかった。
破れた古い票は、川瀬のポケットに入ったままだった。




