第15話「知らなかったことにできません」
夕方。
老婦人が帰ったあとも、百十五番の受領票は机に残っていた。
表。
《配送完了》
裏。
空白。
ぱむちゃんは何度も裏返した。
真意ちゃんが向かいに座る。
「何を書きたいの?」
ぱむちゃんは鉛筆を持つ。
《鉢》
書いて、止まる。
消す。
《花》
また消す。
◇
真意ちゃんが別の紙を一枚置いた。
「分けよう」
一本線を引く。
左に《見た》。
右に《分からない》。
「昨日、見たもの」
ぱむちゃんは左を指す。
紙袋。
木戸。
朝顔の鉢。
真意ちゃんが書く。
「そのあと、確認できたこと」
割れた鉢。
折れた花芽。
怪我なし。
老婦人からの依頼で片づけ。
透明袋。
「ここまで事実」
ぱむ。
真意ちゃんは右側を指した。
「残っていたら防げた?」
ぱむちゃんは動かない。
真意ちゃんが書く。
《UNKNOWN》
「早く帰ったから割れた?」
《UNKNOWN》
「ぱむちゃんの責任?」
鉛筆が止まる。
《UNKNOWN》
真意ちゃんは紙を回した。
「不明を、責任なしに変えない」
ぱむ。
「責任ありにも変えない」
ぱむ。
「事実だけ残して。解釈は後」
◇
ぱむちゃんは百十五番の受領票へ戻った。
裏に書く。
《翌朝 鉢破損を確認》
《花芽一本 折損》
《原因 UNKNOWN》
そこで鉛筆を置いた。
真意ちゃんは何も足さない。
◇
百十六番の紙袋が配送台に置かれる。
ぱむちゃんは両手を出す。
途中で、百十五番を見る。
昨日までなら、箱へ戻してから持った。
今日は机の端へ寄せる。
新しい紙袋を持つ。
古い票も残っている。
どちらかを消さなくても、次へ行ける。
◇
夜。
真意ちゃんが記録を閉じようとする。
ぱむちゃんが端を押さえた。
「まだ?」
ぱむ。
真意ちゃんは手を離した。
ぱむちゃんは《UNKNOWN》を見る。
消しゴムが隣にある。
触らない。
答えが出なかった欄を、答えが出なかったまま残した。
百十五番は《配送完了》だった。
その記録の裏に、完了していない三文字が残った。




