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第14話「帰ったあと」


 翌朝。


 ぱむちゃんは百十五番の家の前で止まった。


 配送先ではない。


 別の紙袋を抱えている。


 玄関脇の朝顔が、地面に倒れていた。


 昨日、支柱に巻いていた茎。


 青い札。


《朝顔》


 鉢は三つに割れている。


 ぱむちゃんは、昨日聞いた木戸の音を思い出す代わりに、同じ木戸を見た。


 ◇


「あら、昨日の子」


 老婦人が箒を持って出てきた。


 ぱむ。


「これね。昨日、あなたが帰ったすぐあと」


 老婦人は割れた鉢を指した。


「おじいさんが袋を持って、戸を押さえて、鉢を避けようとして」


 手で動きを再現する。


 紙袋を持つ。


 木戸を押す。


 身体をひねる。


 肘が鉢に当たる。


 ぱむちゃんは昨日、そこまで見ていた。


 紙袋。


 木戸。


 鉢。


 それから目を外した。


「怪我はしてないよ」


 ぱむちゃんが老婦人を見る。


「おじいさんも平気」


 ぱむ。


「あなたが悪いって話でもないの」


 老婦人は土の中から細い茎を拾った。


 途中で折れている。


「これだけ、今日咲くはずだったんだけどね」


 ◇


 ぱむちゃんは破片へ手を伸ばした。


 止める。


 老婦人を見る。


「あ」


 老婦人が気づいた。


「片づけ、手伝ってくれる?」


 ぱむ!


 そこで初めて拾った。


 一枚。


 二枚。


 三枚。


 土を寄せる。


 残った株を別の鉢へ移す。


 ぱむちゃんは折れた茎も持ち上げた。


「それは、もう戻らないね」


 手が止まる。


 老婦人が受け取る。


「捨てるのは私がやるよ」


 ぱむ。


 ぱむちゃんは渡した。


 ◇


 別の配送を終えて店へ戻る。


 百十五番の受領票を箱から探す。


 少し斜めに入っていた一枚。


 表。


《配送完了》


 裏。


 空白。


 ぱむちゃんは裏側を見たまま動かなかった。


 至誠ちゃんが隣へ来る。


「百十五番ですか!」


 ぱむ。


「昨日は完了しています!」


 ぱむ。


 ぱむちゃんは受領票を表へ返さない。


 至誠ちゃんも、それ以上言わなかった。


 ◇


 夕方。


 老婦人が店へ来た。


 小さな透明袋を持っている。


 中には、折れた朝顔の花芽。


「孫がね、押し花にするって」


 ぱむちゃんが近づく。


「咲かなかったけど、捨てなくていいって」


 青い札も入っている。


《朝顔》


 ぱむちゃんは袋に触れない。


 老婦人が笑う。


「これは頼んでないから、持たなくていいよ」


 ぱむ。


「見てくれればいい」


 ぱむちゃんは見た。


 昨日は見ないことで、相手のものを奪わないようにした。


 今日は何も持たず、何も直さず、ただ見た。


 老婦人は透明袋を自分の鞄へ戻した。


 百十五番の受領票は、その夜も《配送完了》のままだった。


 裏側だけが、もう空白には見えなかった。

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