第13話「見ないで帰る」
百十二番。
「はい、私です」
紙袋を渡す。
《配送完了》
ぱむ。
ぱむちゃんは、受取人が袋を持ち直す前に背を向けた。
「あ、ありがとう」
足を止めない。
◇
百十三番。
「助かったよ」
《配送完了》
ぱむ。
扉が閉まる音を、階段の途中で聞いた。
◇
百十四番。
紙袋を渡す。
《配送完了》
ぱむ。
「あの」
ぱむちゃんの足が一瞬止まる。
昨日の二枚の受領票が頭ではなく、鞄の中にある。
《配送完了》
表示を見る。
歩き出す。
後ろで何か言った。
聞かない。
◇
配送口。
三件。
遅延なし。
追加作業なし。
再訪なし。
至誠ちゃんが端末を見る。
「今日は速いですね!」
ぱむ!
「百十二、十三、十四。全部、受領確認済み!」
ぱむ。
至誠ちゃんが顔を上げる。
「……全部、すぐ帰りました?」
ぱむ。
ぱむちゃんは三枚を一直線に並べた。
全部《配送完了》。全部同じ向き。
昨日の百十番と百十一番は、箱の中で別々に入っている。
ぱむちゃんは、そちらを見なかった。
◇
次は百十五番。
老夫婦が玄関に並んでいた。
「ありがとうね」
夫が紙袋を受け取る。
《配送完了》
ぱむ。
ぱむちゃんは一歩下がった。
夫が片手で紙袋を持ち、もう片方で重い木戸を押さえる。
玄関脇には朝顔の鉢。
細い茎が支柱に巻いている。
ぱむちゃんの目が、夫の手から鉢へ動く。
「どうしたの?」
老婦人が聞く。
ぱむちゃんは首を横に振った。
昨日の百九番。
危ないと思って、止めた。
百十番。
頼まれていないから、帰った。
百十一番。
頼まれたから、戻った。
今は誰も頼んでいない。
夫は困ったとも言っていない。
ぱむちゃんは鉢から目を外した。
「気をつけてね」
ぱむ!
背を向ける。
木戸の軋む音がした。
振り返らない。
◇
閉店前。
四枚の受領票を箱へ入れる。
表には四つとも《配送完了》。
ぱむちゃんは裏返さない。
今日、何も起きなかったかは確認しない。
確認しなければ、勝手に手を出す理由も増えない。
至誠ちゃんが隣で次の日の配送札を揃えている。
「帰るか残るか、私が決めましょうか!」
ぱむちゃんはすぐ首を横に振った。
至誠ちゃんは手を止めた。
「分かりました!」
札を机へ戻す。
「では、そこもぱむちゃんが持ってください!」
ぱむ。
至誠ちゃんは出口を指さなかった。
ぱむちゃんは四枚を箱へ押し込んだ。
見なければ、奪わない。
その日のぱむちゃんには、それがいちばん安全なやり方に見えていた。
箱の中で、百十五番の受領票だけが少し斜めになった。




