第12話「配送係ですよね」
百十番は、会社の受付だった。
「ここで受け取ります」
女性が紙袋を受け取る。
《配送完了》
ぱむ。
女性は受付台へ戻った。
電話が鳴る。
「はい、総務です」
ぱむちゃんは残っていた。
電話が終わる。
女性が書類を一枚処理する。
もう一度、顔を上げた。
「まだ何か?」
ぱむちゃんは女性を見る。
「この後が気になる?」
ぱむ。
女性は少し考え、机の端に紙袋を置いた。
「でも、配送係ですよね」
ぱむちゃんが止まる。
「届けてもらった後は、私の時間です」
怒ってはいない。
「困ったら、その時は私から頼みます」
ぱむちゃんは一歩下がった。
「今は頼んでません」
ぱむ。
踵を返した。
◇
百十一番。
古い雑居ビルの四階。
一人暮らしの男性が紙袋を受け取った。
「ありがとう」
《配送完了》
ぱむちゃんは端末を見る。
さっきより早く向きを変えた。
「待って」
足が止まる。
振り返らない。
「悪い。戻ってきてくれる?」
ぱむちゃんが戻る。
男性の右腕には厚い固定具。
左手にも新しい包帯が巻かれていた。
「袋、開けてもらえる?」
ぱむ!
紙袋を開く。
箱を出す。
蓋を開ける。
「そこまで」
ぱむちゃんの手が止まった。
男性は片手でバーガーを持つ。
「助かった」
ぱむ!
◇
男性が台所へ向く。
ぱむちゃんも一歩ついていく。
「水は自分でやる」
止まる。
ぱむ。
男性は軽いコップを出した。
蛇口をひねる。
少しこぼした。
ぱむちゃんの身体が前へ傾く。
男性は布巾を肘で寄せた。
「これくらいは、やらせて」
ぱむちゃんは戻った。
男性が自分で拭く。
「手伝ってほしい時は、言うから」
ぱむ。
「言わなかったら?」
ぱむちゃんは玄関を見る。
男性を見る。
一歩、玄関へ戻る。
「そう。それでいい」
◇
配送口。
至誠ちゃんが二枚の受領票を見比べる。
「百十番。頼まれていないから帰る!」
ぱむ。
「百十一番。頼まれたから戻る!」
ぱむ。
至誠ちゃんは二枚を重ねようとして、やめた。
「同じ《配送完了》でも、その後は同じにできません!」
ぱむちゃんが首を傾ける。
「でも『頼まれた時だけ』なら全部決まるでしょうか!」
ぱむちゃんは動かない。
至誠ちゃんも答えなかった。
百十番の女性は、自分で頼むと言った。
百十一番の男性は、必要なところだけ頼んだ。
どちらも、ぱむちゃんが決める前に境界を言葉にできた。
できない人なら。
言う前に困ったら。
言われたこと自体が危なかったら。
受領票には、その答えはなかった。
ぱむちゃんは二枚を別々に箱へ入れた。
次の紙袋へ手を出す前に、一度だけ自分の両手を見た。




