第11話「その人のためです」
百九番を受け取った男性は、杖を使っていた。
「ありがとう」
《配送完了》
ぱむ。
男性は食べ終えると、玄関脇の小箱を持った。
《坂上集会所》
「じゃ、行ってくる」
ぱむちゃんが箱を見る。
杖を見る。
窓の外を見る。
昨日の雨は止んでいる。
ぱむちゃんは扉の前へ出た。
「そこ、通るよ」
ぱむ。
動かない。
◇
前日の配送帰り。
同じ男性が坂を上っていた。
一度、手すりにつかまった。
二度目は石垣へ腰を下ろした。
箱はなかった。
今日はある。
ぱむちゃんは男性の箱へ手を伸ばした。
「持ってくれるの?」
ぱむ!
「いや。今日は自分で持ってく」
ぱむちゃんは手を引かない。
男性が箱を持ち直す。
「大丈夫」
ぱむちゃんは首を横に振った。
箱を抱えた。
「おい」
男性の手から、荷物がなくなった。
◇
ぱむちゃんは先に階段を下りた。
男性も追う。
「返して」
ぱむちゃんは坂を見る。
首を横に振る。
「俺が危ないから?」
ぱむ。
「だったら箱だけ持って、一緒に行けばいいだろ」
ぱむちゃんは坂の下を見る。
男性を見る。
動かない。
「行くこと自体を止めてるのか」
ぱむ。
男性の顔から笑いが消えた。
「それは手伝ってない」
◇
坂の途中にベンチがある。
男性がそこまで歩いた。
ぱむちゃんは箱を持ったまま横につく。
「箱、返して」
ぱむちゃんは渡さない。
「昨日、俺が二回休んだの見たんだろ」
ぱむ。
「今日は一回でここまで来た」
ぱむちゃんは昨日二度目に休んだ石垣を見る。
まだ先にある。
「昨日の俺を運んでるんじゃないんだよ」
ぱむちゃんが止まる。
「今日の俺が、今日行くんだ」
手が差し出される。
◇
妄執ちゃんが坂の下から来た。
「昨日二回休んだことは残っていますわ」
男性を見る。
「今日ここまで一回で来たことも、同じように残しますの」
ぱむちゃんは箱を見る。
「片方を消して、もう片方だけにしないでくださいませ」
男性の手は下がらない。
ぱむちゃんは、箱を返した。
「ありがとう」
さっきより小さい声だった。
◇
男性は坂を上る。
石垣の前を通り過ぎた。
その先で止まった。
新しい場所で休んだ。
ぱむちゃんの身体が前へ出る。
止まる。
男性は自分で立った。
集会所へ着いた。
箱を自分で受付へ置いた。
ぱむちゃんは外から見ていた。
◇
帰り。
昨日の石垣。
今日のベンチ。
今日初めて休んだ場所。
三つが坂に残っている。
妄執ちゃんが振り返る。
「明日なら、また違う場所かもしれませんわ」
ぱむ。
「だから今日のことも忘れませんの」
ぱむちゃんは空の両手を見る。
危険を覚えることはできた。
代わりに持つこともできた。
けれど、相手が引き受けると決めた危険まで取り上げれば、その人の今日も一緒に持ち去ってしまう。
坂には、昨日と違う休憩場所が一つ増えていた。




