第10話「良くなるまで待ちます」
百八番の女性は、泣いた顔で紙袋を受け取った。
「今日は、ちょっと駄目で」
《配送完了》
ぱむ。
ぱむちゃんは帰らなかった。
女性は玄関に座り、冷める前にバーガーを半分食べた。
途中で泣いた。
ぱむちゃんはそこにいた。
◇
翌日。
呼び鈴が鳴る。
女性は鏡を見た。
目元を水で洗う。
カーテンを開ける。
床のティッシュをゴミ箱へ押し込む。
深呼吸を二回。
扉を開けた。
「ほら。今日は大丈夫」
ぱむ。
ぱむちゃんは帰った。
扉が閉まる。
女性はカーテンを閉めた。
◇
その翌日。
呼び鈴が鳴る前に、女性は起きた。
時計を見る。
昨日と同じ時刻。
顔を洗う。
髪を結ぶ。
食べていない皿を流しへ隠す。
テーブルの薬袋を引き出しへ入れる。
笑う。
鏡を見る。
もう一度、笑う。
呼び鈴。
「今日はもっと平気」
ぱむちゃんは女性を見る。
「ちゃんと寝たし」
ぱむ。
「ご飯も食べた」
ぱむ。
「泣いてないよ」
ぱむちゃんは少し跳ねた。
ぱむ!
帰る。
女性は扉に背中をつけた。
笑うのをやめた。
◇
三日目。
ぱむちゃんは、いつもの時刻に廊下へ来た。
呼び鈴へ手を伸ばす。
「今日は押さないにゃ」
安寧ちゃんが階段に座っていた。
ぱむ。
「昨日と同じ音を出したら、昨日と同じ答えを出す仕事が増えるにゃ」
ぱむちゃんが扉を見る。
中で何か落ちた。
ぱむちゃんの手が動く。
「一回、休ませるにゃ」
安寧ちゃんは立たない。
「困ってるかどうかを確かめるために、毎日困ってない顔をさせたら逆になるにゃ」
ぱむちゃんの手が、呼び鈴から離れた。
◇
夕方。
女性がPANDEMONIUM BURGERへ来た。
化粧をしていなかった。
髪も結んでいない。
ぱむちゃんを見つける。
「今日は来なかったね」
ぱむ。
「朝、待ってた」
ぱむちゃんが近づく。
「来たら、元気な顔しなきゃって」
止まる。
「最初の日は、いてくれて助かったよ」
女性は空いた椅子へ座る。
「二日目も、たぶん嬉しかった」
指でテーブルの縁をなぞる。
「でも三日目には、ぱむちゃんを安心させるのが朝の仕事になってた」
ぱむ。
「今日は来なかったから」
女性は鼻をすすった。
「昼まで寝た。ご飯も食べなかった。ちょっと泣いた」
安寧ちゃんがカウンターから顔だけ出す。
「それで今ここまで来たにゃ」
「うん」
女性が笑った。
今度は鏡を見なかった。
◇
ぱむちゃんは女性の前へ行かなかった。
隣の椅子を空けたまま、少し離れて立つ。
女性が自分から手を伸ばす。
ぱむちゃんは、その時だけ近づいた。
ぱむ。
翌朝。
同じ時刻になっても、呼び鈴は鳴らなかった。
女性の部屋で、カーテンが閉じたままでも。
それを開けさせる仕事は、もう増えなかった。




