第9話「まだいます」
百七番は、団地の三階だった。
「はい」
若い男性が紙袋を受け取る。
《配送完了》
「ありがとう」
ぱむ。
扉が閉まる。
ぱむちゃんは廊下に残った。
◇
五分後。
扉が開いた。
「あれ?」
ぱむ。
「まだいたの?」
ぱむ。
男性は少し困った顔をした。
「何か忘れた?」
ぱむちゃんは首を振る。
「受領、できてない?」
端末には《配送完了》。ぱむちゃんはそれを見せる。
「じゃあ、何で?」
ぱむちゃんは玄関を見る。
男性を見る。
その場に座った。
「……待ってるの?」
ぱむ。
男性は扉を半分閉めた。
「ごめん。今日は一人でいたいんだ」
◇
ぱむちゃんは立たなかった。
昨日の待合室では、帰らないでほしいと言われた。
今は、扉の向こうから何も聞こえない。
一分。
扉がもう一度開く。
男性はさっきより小さな声で言った。
「まだいるね」
ぱむ。
「心配してくれてるなら、ありがとう」
ぱむちゃんの身体が少し上がる。
「でも、帰ってほしい」
止まる。
「大丈夫だから、じゃなくて」
男性は言い直した。
「大丈夫じゃなくても、一人でいたい時があるから」
ぱむちゃんは男性を見る。
玄関を見る。
廊下の先を見る。
ゆっくり立った。
ぱむ。
「ありがとう」
今度は扉が閉まるまで待たず、歩き出した。
◇
配送口。
至誠ちゃんが帰着時刻を見る。
「今日は六分ですね!」
ぱむ。
「何かありましたか!」
ぱむちゃんは両手を前へ出す。
待つ形。
それから、首を横に振る。
一歩後ろへ下がる。
至誠ちゃんも一歩下がった。
「残らない方がいい時も、あるんですね!」
ぱむ。
端末には《配送完了》しか残っていない。
昨日と同じように残った。
昨日は助かった。
今日は、帰ることが助けになった。
ぱむちゃんは次の紙袋の前で、すぐには座らなかった。




