第8話「ここにいます」
百六番は、小さな診療所の待合室だった。
受取人は高校生くらいの女の子。
「私です」
ぱむちゃんが紙袋を渡す。
《配送完了》
女の子は受け取ったまま、椅子から立たなかった。
隣には封筒がある。
病院の名前。
検査結果。
開封済みだった。
◇
「帰るの?」
ぱむちゃんが止まる。
「ごめん。変なこと聞いた」
ぱむ。
女の子は紙袋を膝に置いた。
「母さん、あと一時間くらい来られないんだ」
ぱむちゃんは出口を見る。
女の子を見る。
「一人で待つだけなんだけど」
ぱむ。
「……いてくれる?」
ぱむちゃんは隣の椅子へ移った。
◇
十分。
女の子がポテトを一本食べる。
ぱむちゃんは座っている。
二十分。
「何も聞かないんだね」
ぱむ。
「話せないだけ?」
ぱむ。
「そっか」
少し笑った。
三十分。
廊下の壁から憂起ちゃんの顔が半分だけ出た。
「まだいます?」
ぱむ。
女の子が驚いてポテトを落とす。
「壁から!?」
「お触り禁止で」
「触らないよ!」
憂起ちゃんは床へ抜け、普通に隣へ出てきた。
「迎え、下まで来ています。階段を上がってます」
女の子の手が紙袋を強く握った。
◇
足音が近づく。
「ごめん、遅くなった!」
母親が待合室へ入ってきた。
女の子は立つ。
封筒を持つ。
「母さん」
「うん」
「これ、一緒に読んで」
母親は封筒を受け取った。
ぱむちゃんが椅子から降りる。
「あ」
女の子が振り返る。
「ありがとう。いてくれて」
ぱむ!
◇
帰り道。
「何かしました?」
憂起ちゃんが聞く。
ぱむちゃんは首を振る。
「じゃあ、ずっとそこに?」
ぱむ。
「今の私はここです、みたいなものですね」
ぱむちゃんは憂起ちゃんを見る。
「違います?」
ぱむちゃんは少し跳ねた。
ぱむ!
端末には、とっくに《配送完了》と出ていた。
そのあとに必要だったのは、答えでも修理でもなかった。
帰らないでほしい、と頼まれた時間だけ、そこにいることだった。




