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第5話「できたてが好き」


 PANDEMONIUM BURGERの厨房には。


 完成したものだけが通る、もう一つの厨房がある。


 鉄板はない。


 包丁もない。


 あるのは、細い搬送台と。


 四つの受け渡し口。


 それから。


 四つより多い行き先だった。


 ◇


「三番が、また二番へ着いています」


 悲醒ちゃんがトレーを止めた。


 札には《三番》。


 受け渡し口には《二番》。


 どちらも、文字は正しい。


「昨日の線が残ってるのかも」


 輪廻ちゃんは搬送台の下にいた。


 片腕が、台の配線へつながっている。


 指を一本動かす。


 搬送台が右へ進む。


 別の指を動かす。


 同じ搬送台が左へ進む。


「二つとも生きてる。切るのは嫌だな」


「では、止めてください」


「止めると、四番が天井へ行くよ」


 天井をトレーが一枚、静かに通った。


 憂起ちゃんが床から顔を出す。


「四番、上で待ってます」


「取れますか」


「手が透けるので無理です」


「では、見ていてください」


「それなら、もう見てます」


 憂起ちゃんは床へ沈んだ。


 天井のトレーだけが、その後をついていく。


 ◇


 万寿ちゃんは、完成したバーガーを透明な覆いの中へ並べていた。


 一個。


 二個。


 三個。


 湯気が、同じ形で止まる。


「こちらは待てます。できた時のままですから」


 四個目が届く。


 覆いを開ける。


 ぱむちゃんが跳ねた。


 できあがったばかりのバーガー。


 焼けたバンズ。


 溶けたチーズ。


 包み紙の内側で、ソースがまだゆっくり落ちている。


「これも残しておきましょう」


 万寿ちゃんが手を伸ばす。


 ぱむちゃんも、両手を伸ばす。


 手が、透明な覆いの前で並んだ。


「あら」


 万寿ちゃんが止まる。


「持ちたいの?」


 ぱむ!


「どこへ持っていくか、分かる?」


 ぱむちゃんは《三番》の札の下へ移った。


 二番の受け渡し口が開いている。


 三番は閉じている。


「今は、どっちにも置かないで」


 輪廻ちゃんが言った。


 ぱむちゃんはバーガーと二番のあいだに立った。


 開いている方へは、行かなかった。


 ◇


 搬送台の奥で、鈴が鳴った。


 一番。


 次に三番。


 次に、まだない五番。


「増えました」


 悲醒ちゃんが細い札を投げる。


 搬送台の継ぎ目へ貼りついた。


 白い霜が、線に沿って走る。


 三つの方向へ分かれかけた台が止まった。


「活動点だけ固定しました。完成品は冷やしていません」


「助かる。止まってるうちに縫い直すね」


 輪廻ちゃんは自分の腕から細い管を一本外した。


 古い配線と新しい配線の間へつなぐ。


「昨日の線も、捨てないのですか」


 二諦ちゃんが包み紙を一枚、搬送台へ置いた。


 油染みが二方向へ広がる。


「戻る日があるかもしれないし」


「あります」


「じゃ、残そう」


「残すと、今日は少し遅れます」


「今日の人には謝ろう」


 二諦ちゃんは二つに分かれた染みを見る。


「三番は、先に開けると二番へ届きます。二番のあとなら、三番へ届きます」


「今、言う必要あった?」


 床の下から憂起ちゃん。


「今なら、まだ面白いので」


「待つ方ですね」


 悲醒ちゃんが三番の札を裏返した。


《準備中》


 ◇


 注文口から声が飛んだ。


「三一八番、まだですか!」


「三番です。あと少し待ってください」


 悲醒ちゃんが答える。


 万寿ちゃんは四個目のバーガーへ、もう一度手を伸ばした。


「待たせるなら、これも止めておきましょうか」


 万寿ちゃんが四個目のバーガーへ手を伸ばした。


 その前へ、ぱむちゃんが一歩入った。


 透明な覆いの横。


 三番の札の下。


 受け渡し口まで、まだ届かない位置。


 そこで腕を広げた。


「持って待つの?」


 ぱむ。


「落とさないでね。できたては、形を変えやすいから」


 万寿ちゃんがトレーを渡す。


 湯気が鼻先へ上がった。


 ぱむちゃんの身体が一度だけ跳ねる。


 トレーは動かなかった。


 ◇


 二番の口が開いた。


「こちら、空きました!」


 ぱむちゃんは動かなかった。


 開いた二番とトレーのあいだに、自分の身体だけを残す。


《三番》


 三番の表示は、まだ《準備中》。


 空いている口より、閉じた三番の前を選んだ。


 そこで待った。


 ◇


 搬送台が、短く震えた。


 上を走っていた空のトレーが落ちてくる。


「下がってください」


 悲醒ちゃんの札が空中でトレーを止めた。


 輪廻ちゃんは配線から手を離さない。


「そこ、あと三十秒」


 万寿ちゃんは透明な覆いの中の三個を見る。


 憂起ちゃんは壁を抜けて、三番の向こうへ消えた。


 二諦ちゃんだけが、ぱむちゃんを見る。


「そのままなら、届きます」


 ぱむちゃんは動かない。


「置いても、届きます」


 動かない。


「どちらも外れません」


 ぱむちゃんは、トレーの縁を持ち直した。


 二諦ちゃんは包み紙を畳む。


「では、そちらですね」


 ◇


「つながった」


 輪廻ちゃんが指を抜く。


 悲醒ちゃんが札を剥がす。


 霜が消える。


 搬送台が一番へ。


 二番へ。


 三番の手前で、きちんと止まった。


 憂起ちゃんが壁から戻る。


「向こう、受け取れます」


 悲醒ちゃんが札を表へ返す。


《三番》


 三番の口が開いた。


 受け渡し口の向こうから、両手が伸びる。


「三一八番、受け取ります」


 ぱむちゃんは、すぐには前へ出さなかった。


 相手の両手が、こちら側まで来る。


 トレーの向こう側をつかむ。


 重さが半分、向こうへ移った。


 そこで初めて、ぱむちゃんは一歩近づいた。


 残りの重さも、向こうへ渡る。


 手を離した。


 ◇


 包み紙が開く。


 湯気が上がる。


「うわ、まだ熱い」


 三一八番の客が笑った。


 ぱむちゃんが跳ねる。


 今度は、身体ごと。


 受け渡し口のこちら側で。


 ◇


「保存はしていません」


 万寿ちゃんが言った。


「でも、できた時のままでしたね」


「守ってたから」


 輪廻ちゃんは直した配線を引っぱる。


 外れない。


「置き場所ができるまで、持っていました」


 悲醒ちゃんが三番の札へ時刻を書く。


「一つ、使わなかった受け渡し口があります」


 二諦ちゃん。


「それ、記録に要ります?」


 床から半分だけ出た憂起ちゃんが聞く。


「今日は要りません」


「じゃ、帰ります」


 憂起ちゃんは床へ消えた。


 天井に残っていた四番のトレーも、一緒に消えた。


「それは持っていってください」


「分かってます」


 床の下から声がした。


 ◇


 次のバーガーが届いた。


 完成したばかり。


 ぱむちゃんが跳ねる。


 札を見る。


《一番》


 一番の口は。


 悲醒ちゃんが清めた直後で、まだ閉じている。


 ぱむちゃんはトレーの前へ行く。


 触らない。


 万寿ちゃんを見る。


「開くまで、持っていてくれる?」


 ぱむ!


 両手で持つ。


 一番の前へ行く。


 止まる。


 扉が開くまで。


 できたてを、できたてのまま。

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