第4話「キッチンに入ります」
ぱむちゃんは。
食材ではない。
それを確認してから、キッチンへ入った。
◇
「十一時まで、あと四十三分」
黄昏ちゃんが時計を見る。
「パティ、十二枚。バンズ、十二組。最初の終わりは十一時七分」
「最初なのに終わりなんだねえ」
夢幻ちゃんは鉄板の前にいた。
片手でパティを返す。
もう片方の手で、何もない皿へ塩を振る。
「そっちは何?」
黄昏ちゃんが聞く。
「明日できる方」
「今日は使わないで」
「うん。たぶん」
幽玄ちゃんは、奥の暗い通路を見ていた。
「今日は、そちらから三人見ています」
「お客さん?」
「まだ顔がありません」
「じゃ、できるまで待ってもらおうかあ」
厨房は、いつもどおりだった。
◇
ぱむちゃんの首には。
《作業中》
《仮》
秩序ちゃんが追加した札。
《食材ではありません》
三枚、下がっていた。
「重くない?」
黄昏ちゃん。
ぱむちゃんは札を両手で持ち上げた。
「重いみたい」
夢幻ちゃん。
「減らす?」
ぱむちゃんは三枚とも離した。
札が腹の前で重なる。
ぱむ。
「分からないねえ」
◇
「まず、バンズを置いてみる?」
夢幻ちゃんが下のバンズを一枚渡す。
ぱむちゃんは両手で持った。
自分を見る。
バンズを見る。
自分を見る。
「似てる?」
ぱむ。
「どっちが上かなあ」
ぱむちゃんはバンズを頭へ乗せた。
「そっちじゃない」
黄昏ちゃんが戻す。
一回目。
《準備 不適》
◇
「では、レタスを一枚」
水を切った葉を渡す。
ぱむちゃんは広げる。
自分の緑の層を見る。
葉を見る。
腹へ巻いた。
「増えたねえ」
「増やす工程ではないよ」
二回目。
《盛付 不適》
◇
「包み紙」
黄昏ちゃんが渡す。
「これは食材じゃないから」
ぱむちゃんは紙を開いた。
中央へ座った。
四隅を自分へ寄せる。
「包まれる側になりました」
幽玄ちゃんが言った。
「完成?」
夢幻ちゃん。
「違うよ」
三回目。
《包装 不適》
◇
黄昏ちゃんが時計を見る。
「あと二十七分」
「三つも分かったよお」
「できないことが」
「終わった仕事は戻さなくていいよ。次を見よう」
ぱむちゃんは包み紙から出た。
三枚の札を直す。
鉄板を見る。
パティが焼ける。
バンズが置かれる。
ソース。
レタス。
パティ。
チーズ。
上のバンズ。
夢幻ちゃんが最後に串を挿した。
「できたよお」
ぱむちゃんが跳ねた。
今までで一番高く。
◇
幽玄ちゃんが奥を見た。
「一人、近づきました」
「どっちから?」
「壁の中です」
厨房の壁が、一度だけ膨らんだ。
受け渡し口のベルが鳴る。
注文番号。
《一〇一》
「あと二分」
黄昏ちゃん。
「持っていくねえ」
夢幻ちゃんが完成したバーガーをトレーへ置く。
壁がもう一度、膨らんだ。
棚の皿が揺れる。
夢幻ちゃんが皿を押さえた。
黄昏ちゃんは時計を押さえる。
幽玄ちゃんは壁へ向く。
「見ないで。近づかれます」
三人とも。
手が塞がった。
ベルが、もう一度鳴る。
《一〇一》
◇
ぱむちゃんはトレーの前に立った。
バーガーを見る。
夢幻ちゃんを見る。
受け渡し口を見る。
「運んでみる?」
夢幻ちゃんが言った。
ぱむちゃんは、すぐには持たなかった。
トレーの左右へ手を置く。
夢幻ちゃんを見る。
「あそこへ」
受け渡し口を指す。
「置くところまでねえ」
ぱむ!
◇
トレーが上がる。
左右の高さは同じ。
一歩。
ソースは垂れない。
二歩。
レタスはずれない。
三歩。
壁の中で、何かがぱむちゃんと同じ速さでついてくる。
「見ないで」
幽玄ちゃん。
ぱむちゃんは前だけを見る。
四歩。
床が少し傾いた。
トレーは傾かない。
ぱむちゃんの身体だけが、斜めになる。
五歩。
受け渡し口。
台は、ぱむちゃんの目の高さにあった。
手を上げる。
トレーの縁が台に触れる。
押す。
中央まで。
手を離す。
バーガーは。
できた時と、同じ形だった。
◇
ベルが止まった。
黄昏ちゃんが時計を見る。
「十一時六分」
「終わる前だったねえ」
夢幻ちゃんが皿から手を離す。
壁も元へ戻った。
幽玄ちゃんだけが、まだ見ている。
「壁の中の人も、止まりました」
「食べたかったのかなあ」
「顔ができたら聞きましょう」
◇
受け渡し口の向こうで。
クルーがトレーを受け取った。
「一〇一番、お待たせしました!」
客の声。
「うまそう!」
ぱむちゃんが跳ねる。
でも。
受け渡し口を越えない。
トレーが相手の手へ渡るまで。
その場で見ていた。
◇
午後。
秩序ちゃんが点検表を開く。
《準備 不適》
《盛付 不適》
《包装 不適》
「全滅ですか」
「一個できたよお」
夢幻ちゃん。
「どの工程ですか」
「できた後」
黄昏ちゃんが時刻を書く。
《完成品移動 一件》
《形状変化なし》
《遅延なし》
秩序ちゃんは三つの不適を見た。
その下へ、一行足す。
《完成品の運搬 再試行》
◇
厨房で。
次のバーガーが完成した。
ぱむちゃんが跳ねる。
誰にも言われる前に、トレーの前へ行く。
両手を左右へ置く。
夢幻ちゃんを見る。
「今度は、まだ頼んでないよお」
ぱむちゃんは手を離した。
待つ。
夢幻ちゃんが受け渡し口を指す。
「お願いします」
ぱむ!
トレーが上がった。




