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第3話「食材ではありません」


 仕入れたものが店へ着くと。


 まず、名前をつけられる。


《赤い実》


《白い根》


《歩く棚・返却》


 名前をつけられたものは、行き先が決まる。


 ぱむちゃんには。


《作業中》


《仮》


 という名前が、もうついていた。


 ◇


「赤い実、七籠!」


 搬入口で、流焔ちゃんが受け取る。


「白い根、三箱!」


「歩く棚、一台!」


「それは仕入れていません」


 摩天ちゃんが言った。


 棚は自分で温室へ帰っていった。


 悲醒ちゃんが、最後の小籠を台へ置く。


「皮が薄いです。重ねないでください」


「分かった。先に切る」


「先に冷やしてください」


「切ってから冷やす」


「潰れます」


「じゃ焼く」


「選択肢が減っています」


 流焔ちゃんが笑った。


「早く食える方に増えてるぜ」


 ◇


 受入端末が札を吐いた。


《丸物》


《十二》


《調理優先》


 風が吹いた。


 一枚目は籠へ。


 二枚目は床へ。


 三枚目は、ぱむちゃんの背中へ貼りついた。


 ぱむちゃんは気づかない。


 赤い札を揺らしながら、小籠の横を歩いていた。


「丸物、十二」


 流焔ちゃんが数える。


 一。


 二。


 三。


 十一。


 ぱむちゃん。


「十二」


 ぱむちゃんの両脇を持つ。


 ぱむ?


「こいつだけ札が違うな」


 背中を見る。


《調理優先》


「優先か」


 調理台へ置いた。


 ◇


「待ってください」


 悲醒ちゃんが言った。


「まだ何もしてねえ」


「だから待ってください」


「札は?」


「見えています」


「じゃ調理だろ」


「前を見てください」


 流焔ちゃんが、ぱむちゃんの正面へ回る。


 黒い目。


 ゴマ三粒。


 赤い《作業中》の札。


 その下の、小さな《仮》。


「あ」


 ぱむちゃんが片手を上げた。


「挨拶された」


「返してください」


「どこに?」


「食材ではない場所へです」


「広いな」


 ◇


 流焔ちゃんは、ぱむちゃんを床へ戻した。


 ぱむちゃんは小籠の横へ戻る。


 背中には《調理優先》が残っている。


 受入担当が台車を押してきた。


「調理優先、こちらですね」


 ぱむちゃんを台車へ乗せる。


 ぱむ。


 冷蔵担当が通りかかる。


「丸物は冷蔵です」


 台車ごと冷蔵庫へ向きを変える。


 流焔ちゃんが呼ぶ。


「それ、焼くやつ!」


 台車が戻る。


 悲醒ちゃんが呼ぶ。


「焼かないでください!」


 また止まる。


「どちらですか」


「ぱむちゃんです」


「品種名?」


「名前です」


「丸物ですよね」


「形は判断から外してください」


 ぱむちゃんは台車の上で、三回向きを変えた。


 赤い札だけが、少し斜めになった。


 ◇


 秩序ちゃんが来た。


 台車。


 小籠。


 受入札。


 ぱむちゃん。


 一項目ずつ見る。


「背中を見せてください」


 ぱむちゃんは振り返った。


 秩序ちゃんが《調理優先》を剥がす。


「原因はこれです」


「原因は貼ったやつだろ」


 流焔ちゃん。


「貼りついた札です」


「札は悪くねえって?」


「札に責任を取らせても、次を止められません」


 秩序ちゃんは端末の横へ、剥がした札を貼った。


《人およびクルーへ貼付禁止》


「ぱむちゃんはクルーなのですか」


 受入担当が聞いた。


「少なくとも食材ではありません」


「備品?」


「今は作業者です」


 赤い札を直す。


《作業中》


《仮》


「今は?」


「担当が決まるまでです」


 ◇


 世達ちゃんが来た時。


 全部、終わっていた。


 赤い実は冷蔵庫。


 白い根は棚。


 ぱむちゃんは床。


「事故と聞きました」


「未遂だぜ」


「どこから未遂ですか」


「火をつけてねえ」


「比較対象がおかしいです」


 世達ちゃんは書類を四枚出した。


「受入誤分類。調理工程混入。作業者ラベル不整合。それから――」


 ぱむちゃんを見る。


「被害は?」


 ぱむちゃんは傾いた赤い札を両手で押さえた。


「札一枚ですね」


「なら備品破損」


「破損していません」


 秩序ちゃん。


「では、備品無事」


「それは報告項目ではありません」


 ◇


 世達ちゃんが書類を並べる。


 一枚が台の下へ落ちた。


 本人は気づかない。


 三枚を持って、流焔ちゃんのところへ行く。


「署名をお願いします」


「なんで私だ」


「焼こうとしたからです」


「焼いてねえ」


「ですから未遂欄です」


 ◇


 ぱむちゃんは台の下へ潜った。


 紙の端をつまむ。


 引く。


 半分だけ出てきたところで、紙が台の脚に引っかかった。


 ぱむちゃんは引くのをやめた。


 反対側へ回る。


 押す。


 紙が、するりと抜けた。


 そのまま床を滑って、世達ちゃんの靴へ当たる。


「……これは」


 世達ちゃんが拾った。


《受入品一覧》


 手元の三枚と見比べる。


「事故報告より、先に要る方でした」


 赤い実の数を照合する。


 七籠。


 合っている。


「ありがとうございます、ぱむちゃん」


 ぱむ!


 ぱむちゃんは、もう紙には触らなかった。


 ◇


 秩序ちゃんは点検表を開いた。


《仕入れ 未定》


 その横へ。


《受入 不適》


「不適なのですか」


 世達ちゃんが聞く。


「現状の表示では」


「運搬は?」


「再試行します」


「次はどこで?」


 秩序ちゃんは厨房を見る。


 完成したバーガーが、受け渡し口へ置かれた。


 ぱむちゃんの身体が跳ねる。


「キッチンです」


 ◇


 世達ちゃんは帰りかけた。


 受入品一覧を落としていないか、もう一度見る。


 手にある。


 ぱむちゃんを見る。


「正しい紙を返す方ですね」


 ぱむちゃんは。


 もう厨房を見ていた。

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