↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/100

第2話「仕入れに行きます?」


 午前九時十二分。


 ぱむちゃんには、まだ仕事がなかった。


 《作業中》の札はついている。


 《仮》もついている。


 担当だけが決まっていない。


 だから、誰かが動くたびについていった。


 レジへ。


 ぱむ。


「そこは押さないでください」


 厨房へ。


 ぱむ。


「熱いからこっち来ちゃだめ!」


 客席へ。


 ぱむ。


「そこ、今お客さん座るよ」


 戻る。


 また誰かを見つける。


 ついていく。


 午前九時十三分。


 ぱむちゃんは、至誠ちゃんの後ろにいた。


「……何でしょう」


 ぱむ。


 至誠ちゃんは振り返った。


 ぱむちゃんも止まる。


「私についてきても、面白いことはありませんよ」


 ぱむ。


「ありません」


 ぱむ。


「本当にありません」


 ぱむ!


「なぜ強くなるんですか」


 至誠ちゃんは段ボール箱を持ち上げた。


 空だった。


 畳む。


 紐でまとめる。


 ぱむちゃんは、その一連の動きを見ている。


「これは廃棄です」


 ぱむ。


「持ちませんよ」


 ぱむちゃんが箱へ近づいた。


「持ちません」


 手を伸ばす。


「持ちません」


 持った。


「……持ちましたね」


 箱の方が大きかった。


 ぱむちゃんが見えなくなった。


 段ボール箱だけが、床を歩いている。


「前、見えていますか」


 ぱむ。


「見えていませんね」


 壁へ向かっていた。


 至誠ちゃんが箱の向きを変えた。


「こちらです」


 ぱむちゃんは、そのまま歩く。


 廃棄置き場まで運んだ。


 箱を置く。


 ぱむ!


「はい。ありがとうございます」


 ぱむちゃんは跳ねた。


 首の《作業中》も跳ねた。


 ◇


 午前九時二十一分。


 至誠ちゃんが裏口へ向かった。


 ぱむちゃんも向かった。


「今度はついてきてはいけません」


 止まる。


「外へ出ますので」


 ぱむちゃんは裏口を見る。


 至誠ちゃんを見る。


 裏口を見る。


「仕入れです」


 ぱむ。


「食材を受け取りに行きます」


 ぱむ!


 身体が跳ねた。


「……行きたいのですか」


 ぱむ!


「仕事ではありませんよ」


 ぱむ。


「見学です」


 ぱむ。


「勝手についてくるのは駄目です」


 ぱむ。


「許可を取ります」


 ぱむ!


 至誠ちゃんは少し考えた。


「そこだけ返事が早いですね」


 ◇


「仕入れに行きます?」


 渾沌ちゃんが聞いた。


 ぱむ!


「行くって」


「まだ許可していません」


 秩序ちゃんが点検表を見ている。


「店舗外活動になります」


「見学だよ?」


「見学でも店舗外です」


「じゃ、どうすればいい?」


「同行者を記録します」


 秩序ちゃんは新しい紙を出した。


《店舗外活動記録》


「そんなのあったんだ」


「あります」


「使ったことある?」


「あります」


「いつ?」


「今から使います」


「それ初めてって言わない?」


 秩序ちゃんは答えなかった。


 至誠ちゃんが横から紙を見る。


「目的は、仕入れ見学でよいですか」


「はい」


「担当者は?」


「私で構いません」


 ぱむちゃんが紙をのぞき込む。


 文字は読めているのか分からない。


 自分の名前を見つけたところで、身体が止まった。


《同行者 ぱむちゃん》


 ぱむ。


「確認しましたか?」


 ぱむ!


「では行きましょう」


 ◇


 裏口が開いた。


 外の光が入る。


 ぱむちゃんは敷居の前で止まった。


 店の中を見る。


 外を見る。


 もう一度、中を見る。


「どうしました?」


 至誠ちゃんが聞く。


 ぱむちゃんは首の札を押さえた。


《作業中》


 その下。


《仮》


「外へ出ても、それはなくなりませんよ」


 ぱむちゃんが至誠ちゃんを見る。


「戻ってきますから」


 ぱむ。


 一歩。


 敷居を越えた。


 ぱむちゃんが、初めて店の外へ出た。


 ◇


 駐車場を歩く。


 至誠ちゃんの三歩後ろ。


 ぱむちゃんの歩幅では、かなり速い。


 てててて。


 少し遅れる。


 てててててて。


 追いつく。


 至誠ちゃんが速度を落とした。


 ててて。


 ぱむちゃんも遅くなる。


「合わせなくていいですよ」


 ぱむ。


「こちらが合わせています」


 ぱむ。


「ですから、あなたは普通に歩いてください」


 ぱむ。


 速度が変わらない。


「……どちらが合わせているのでしょうね」


 駐車場の端に、配送用の台車が置かれていた。


 箱が三つ。


 ぱむちゃんが止まる。


 見る。


 至誠ちゃんを見る。


 箱を見る。


「まだ持ちません」


 ぱむ。


「受け取る物を確認してからです」


 ぱむ。


「勝手に運ぶと、間違った物まで持っていきます」


 ぱむちゃんは箱から離れた。


「はい。それでいいです」


 至誠ちゃんは伝票を確認する。


 一箱目。


 二箱目。


 三箱目。


「こちらの二つです」


 ぱむちゃんが三箱目へ向かった。


「そちらではありません」


 止まる。


 戻る。


 一箱目へ向かう。


「それです」


 ぱむ!


 箱を持ち上げる。


 また、ぱむちゃんが見えなくなった。


「前は見えていますか」


 ぱむ。


「今度は見えている返事ですか?」


 ぱむ。


「信用しません」


 至誠ちゃんが箱の横へ回った。


 案の定、壁へ向かっていた。


「こちらです」


 向きを変える。


 ぱむちゃんは歩き出した。


 ◇


 店へ戻る。


 裏口の前。


 ぱむちゃんは箱を抱えたまま止まった。


 取っ手には届かない。


 前も見えない。


 手も塞がっている。


 朝と同じだった。


 違うのは、箱を置かなかったこと。


 ぱむちゃんは待った。


 至誠ちゃんが後ろから来る。


「開けます」


 扉が開く。


 ぱむちゃんは箱を抱えたまま入った。


「おかえり!」


 渾沌ちゃんが言う。


 箱が歩いてくる。


「ぱむちゃんどこ?」


 ぱむ!


「そこか!」


 箱が厨房前まで進む。


「ここです」


 至誠ちゃんが床を指した。


 ぱむちゃんは箱を置いた。


 中から、袋詰めされたバンズが出てくる。


 ぱむちゃんの身体が、ぴょんと跳ねた。


「食べてはいけませんよ」


 止まった。


 ◇


 秩序ちゃんが店舗外活動記録へ線を引く。


《仕入れ見学 完了》


「見学でした」


 至誠ちゃんが言う。


「一箱運んでたけど?」


「見学です」


「仕事したんじゃない?」


「正式な担当ではありません」


 ぱむちゃんが二人を見る。


 秩序ちゃんは少し考えた。


 点検表。


 三十一人分の仕事。


 その一番下。


《ぱむちゃん 担当未定》


 その横へ、小さく書き足した。


《仕入れ補助 一回》


 ぱむちゃんが紙を見る。


 ぱむ。


「一回です」


 ぱむ!


「まだ担当にはしません」


 ぱむ!


「増やしても駄目です」


 ぱむ!


「返事の強さで決まりません」


 ぱむちゃんは跳ねた。


 首の《仮》も、一緒に跳ねた。


 仕事はまだ決まっていない。


 けれど。


 ぱむちゃんが店の外から持ってきたものが、初めて店の中に残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。