第6話「帰らなかった配送係」
百四番の受取人は、古いアパートの二階にいた。
白髪の女性が紙袋を受け取る。
「ありがとう」
《配送完了》
ぱむ。
女性は袋を開いた。
バーガーの下から、小さな紙包みが出てきた。
「あら」
包みの中には、真鍮の鍵が一本。
女性の手が止まった。
◇
「それ、まだ持ってたんだ」
玄関脇にいた郷愁ちゃんが言った。
ぱむちゃんが見る。
「前にここへ来た時、机の上にあった。傷の位置も同じ」
女性は鍵を握ったまま、椅子へ座った。
「十年前に、返す約束をしたの」
郷愁ちゃんは近づかない。
「誰に?」
「妹に」
「返せなかった?」
「返さなかった」
部屋が静かになった。
ぱむちゃんは端末を見る。
《配送完了》
帰らない。
◇
五分。
十分。
女性は鍵を机へ置き、また手に取る。
「今さら渡して、どうするんだろうね」
郷愁ちゃんは窓の方を見た。
「今さらかどうかは、わたしには決められないよ」
女性は何も言わない。
「思い出しかけたものに、勝手に続きを足したくないから」
ぱむちゃんは玄関の横に座った。
◇
階段を上がる足音がした。
一段ずつ、ゆっくり近づく。
女性が顔を上げる。
扉が叩かれた。
「姉さん?」
鍵を握る手が固くなる。
郷愁ちゃんは扉を開けなかった。
ぱむちゃんも動かない。
「今日、ここに荷物が届くって聞いたから」
女性は立たない。
もう一度。
「姉さん」
長いあと、女性が自分で立った。
扉まで歩く。
鍵を持ったまま、開けた。
◇
ぱむちゃんと郷愁ちゃんは階段を下りた。
上の部屋から、二人の声がする。
何を話しているかは聞こえない。
「帰らなくてよかったね」
ぱむ。
郷愁ちゃんは少し考えた。
「でも、わたしたちが話したわけじゃない」
ぱむ。
「そこ、大事だと思う」
ぱむちゃんは配送端末を見る。
《配送完了》
完了してから十五分以上経っていた。
何も直していない。
何も渡し直していない。
ただ、帰らなかった。
その時間の中で、受取人が自分で扉を開けた。




