第5話「届けたあとにできること」
百三番は、商店街の花屋だった。
「助かった。昼の便に間に合う」
店主が紙袋を受け取る。
《配送完了》
ぱむ。
店主が奥へ走る。
ぱむちゃんも店先を離れようとした。
そのとき、後ろで陶器の割れる音がした。
◇
振り返る。
白い植木鉢が一つ、床で割れている。
店主ではない。
若い店員が、花束を抱えたまま立っていた。
「すみません!」
「怪我は?」
「ないです。でも、また……」
店主が棚を見る。
右脚だけ、床の溝に半分乗っていた。
「昨日ずらした棚か」
ぱむちゃんが近づく。
店員が先に手を出した。
「持ちます。店長、そっちお願いします」
二人で鉢を下ろし始める。
ぱむちゃんも丸い手を伸ばす。
「ぱむちゃん、それ一個だけお願い」
ぱむ。
渡されたのは、いちばん上の小さな鉢だった。
◇
棚が空になる。
店員がしゃがんだ。
「これ、板が挟まってます」
薄い木片。
「昨日、私が入れました。がたついたから」
「先に言ってよ」
「店長、昼便の準備で走ってたから」
店主が口を開き、閉じた。
ぱむちゃんは小さな鉢を抱えたまま二人を見る。
「……ごめん。今やろう」
店員が板を抜く。
店主が棚を持ち上げる。
脚が床へ落ち着いた。
店員が一度揺らす。
動かない。
「これなら大丈夫」
店主は割れた鉢を拾おうとする。
「それは私が片付けます」
店員がほうきを取った。
「店長、昼便行ってください。遅れます」
時計は十二時三十二分。
「あ」
店主が紙袋を抱える。
「頼む」
店を飛び出した。
◇
ぱむちゃんはまだ小さな鉢を持っていた。
店員が笑う。
「それ、戻してくれる?」
ぱむ!
棚の一番下へ置く。
「ありがとう。あとは私がやるよ」
ぱむちゃんは手を離した。
店員は割れた破片を掃き、鉢を一段ずつ戻していく。
店の前を自転車が通った。
広げた通路を、別の店員が花束を抱えて抜ける。
棚は動かなかった。
◇
配送口へ戻る。
「百三番、完了しています!」
至誠ちゃんが端末を見る。
ぱむ。
「帰着は七分後です!」
ぱむ。
「何かありましたか!」
ぱむちゃんは床を指す。
棚を押す。
ほうきを掃く。
小さな鉢を置く。
至誠ちゃんが記録欄を開く。
《配送完了後》
そこまで打って、指を止めた。
「配送条件には入れません!」
別のメモ欄へ移る。
《花屋/棚固定》
《店員対応/継続》
ぱむちゃんは次の紙袋を持った。
花屋ではそのころ、店員が最後の鉢を棚へ戻していた。




