第4話「昨日の人」
昼前。配送口に紙袋はなかった。
ぱむちゃんは受領箱から一枚の控えを出した。
《六二番/時計店・修理受付》
「今日は六二番の注文はありません!」
ぱむ。
控えを戻し、店の外へ向かう。
「……行ってくるんですか!」
ぱむ。
◇
向かいの時計店。大きな丸時計は十二時前だった。
ぱむちゃんは正面を通り過ぎる。
《配達は裏口へ》
以前と同じ札。今日は袋を持っていない。
裏口で修理受付の男が歯車を並べていた。
「あ。六二番。今日は何も頼んでないよ」
ぱむ。
ぱむちゃんは帰らない。
「この前の話、聞いた? 目覚まし時計の人」
ぱむ。
「やっぱり、あの日には間に合わなかった。でも別の店で直った。翌日の午後に」
男は歯車を箱へ戻した。
「子どもが使う予定には遅れた。でも時計は直った」
◇
「俺の方は助かったよ。あの日に飯が来たから予定どおり働けた。飛び込みの時計も直せた」
ぱむ。
「だから、ありがとうは取り消さない」
男は少し黙った。
「でも、あの人に『仕方なかったですよね』って言うのも、俺の役じゃないと思う」
ぱむちゃんは作業台の空き場所を見る。もう目覚まし時計はない。
「何しに来たの?」
ぱむちゃんは空の両手を上げ、六二番を渡した時のように前へ出した。
「……昨日の続きを見に来た?」
ぱむ。
「そっか。俺は大丈夫。助かったことも、後から知ったことも、両方ある」
ぱむちゃんは何も渡さず、何も受け取らず、やがて裏口を離れた。
◇
配送口へ戻る。
「配送記録は、増えていません!」
ぱむ。
ぱむちゃんは六二番の控えを出す。成功の印は消えていない。その裏に時計店の住所がある。
そこを指で押さえた。
至誠ちゃんは新しい配送番号を付けなかった。
「戻る道にも、使えるんですね!」
ぱむちゃんは控えを箱へ戻した。
紙は証拠のまま、もう一度その人へ会いに行ける道にもなった。




