第1話「まだ帰りません」
百番は、南口受付だった。
「私で合ってます」
受付の女性が札を見せた。
ぱむちゃんは紙袋の札と見比べる。
同じ名前。
ぱむ。
紙袋を渡す。
《配送完了》
女性はもう次の仕事を見ていた。
足元に、膝ほどある資料箱。
机の端にカードキー。
受け取ったばかりの紙袋。
「じゃ、これも会議室へ……」
資料箱を抱える。
紙袋をその上へ載せる。
カードキーを指にはさむ。
ぱむちゃんは出口を見た。
まだ動かなかった。
◇
女性が認証扉へ着く。
箱で手元が見えない。
「ええと」
カードキーをかざす。
届かない。
箱をずらす。
上の紙袋が滑った。
ぱむちゃんが下から押さえる。
「あっ」
ぱむ。
「ありがとう。ちょっとだけ持ってて」
紙袋を預かる。
女性がカードキーを当てる。
ぴ、と鳴った。
扉が開く。
その瞬間、資料箱の底が抜けた。
ファイルが三冊、床へ落ちた。
一冊は扉の向こう。
二冊は手前。
扉が閉まり始める。
女性は箱を抱えたまま足で止めた。
「うわ、待って」
ぱむちゃんは手前の二冊を拾う。
扉の向こうへは行かない。
女性を見る。
「それ、お願い」
ぱむ!
開いた扉をくぐる。
向こうの一冊も拾った。
◇
会議室前の机。
女性は壊れた箱を置いた。
ぱむちゃんから紙袋を受け取る。
ファイルを三冊。
カードキーも机へ置いた。
「全部ある」
一、二、三。
数えてから、女性が笑った。
「助かった。あのまま一人だったら、扉に箱を挟んでたかも」
ぱむ。
「もう大丈夫」
ぱむちゃんは女性を見る。
女性は破れた箱から書類を出し、机へ積み替え始めた。
一冊。
二冊。
手は空いている。
紙袋は机の端に置かれている。
カードキーもある。
ぱむちゃんは一歩下がった。
「帰る?」
ぱむ。
「ありがとね」
◇
南口へ戻る途中、端末は変わらなかった。
《百番 配送完了》
認証扉を開ける前から、ずっと同じ表示だった。
入口では別の配達員が荷物を渡していた。
「受領お願いします」
端末が鳴る。
その人はすぐ帰った。
ぱむちゃんはその背中を見る。
自分の端末を見る。
《配送完了》
さっき拾ったファイルは、そこには書かれていない。
ぱむちゃんは端末をしまった。
ぱむ。
今度は南口を出た。
配送が終わったあとにも、目の前では物が落ちる。
百番のあと、ぱむちゃんはそれを一度だけ拾って帰った。




