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第22話「ぱむちゃんが選んで」


 残り一分。


 九九番は、ぱむちゃんの腕の中にある。


 小暮は待っている。


 篠原は通信の向こうにいる。


 至誠ちゃんは、配送ステーションで六つの記録を見ていた。


《現在受取 小暮》

《変更申請 篠原》

《本人 受取希望》

《体調懸念 事実》

《別棟経路 一分》

《再調理 三分》


 至誠ちゃんが通信を開く。


「私は、小暮さんへ渡したいです!」


 小暮が顔を上げる。


 ぱむちゃんも端末を見る。


「本人が受け取りたいと言っています! 食事は禁止されていません!」


 一度、息を吸う。


「でも、これは私の意見です!」


 いつもなら、そのあとに行き先を指した。


 今日は、指が上がらない。


 ◇


 篠原の声がする。


「私は渡してほしくないです」


「分かっています!」


「小暮さんが決めるなら、止められないけど」


 少し間があく。


「心配なのは変わりません」


 小暮が言う。


「俺も、食べたいのは変わらない」


 二つとも残った。


 ぱむちゃんは袋を見る。


《九九番》

《共同当番》

《赤熱ソース》


 小暮を見る。


 端末を見る。


 非常階段の方を見る。


 厨房へ戻る廊下を見る。


 ◇


 至誠ちゃんの手が、一度だけ動いた。


 小暮の名前の横まで。


 止まる。


「ぱむちゃん」


 ぱむ。


「私は、小暮さんがいいと思います!」


 もう一度、自分の意見を言った。


 それでも指ささない。


「ぱむちゃんが選んでください!」


 共同研究室が静かになる。


 秩序ちゃんは端末を閉じた。


 彷徨ちゃんは非常階段から戻らない。


 真意ちゃんも追加の質問をしない。


 二諦ちゃんは時計だけを見る。


 渾沌ちゃんは厨房への通信を切った。


 誰も、ぱむちゃんの代わりに次の手を出さなかった。


 ◇


 残り四十秒。


 ぱむちゃんは小暮の前まで歩いた。


 止まる。


 袋を少し持ち上げる。


 小暮が手を出しかける。


 ぱむちゃんは、まだ離さない。


 篠原の名前が出ている端末を見る。


 それから、自分の手を見る。


 ぱむ。


 至誠ちゃんは何も言わない。


 深緑の点も、赤い線も出なかった。


 残り三十秒。


 ぱむちゃんは、袋を持ったまま考えている。


 至誠ちゃんの正解を聞いた。


 篠原の正解も聞いた。


 小暮の希望も見た。


 それでも、最後に動かす手だけは、まだ誰のものにもなっていなかった。

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