第21話「みんなの正解」
残り四分。
九九番は、まだぱむちゃんの腕の中にあった。
共同研究室の扉が開く。
秩序ちゃんが入ってきた。
「一項目ずつ照合します」
小暮の体調。
注文内容。
当番記録。
変更申請。
端末を並べる。
「食事は禁止されていません。受取人は現在、小暮さんです」
小暮が手を上げる。
「じゃあ、もらっていい?」
「現在記録だけなら、はい」
秩序ちゃんは時計を見る。
「ただし、変更申請の処理結果は未確定です」
確認できた。
残り三分二十秒。
◇
彷徨ちゃんは、もう廊下にいなかった。
「厨房まで戻るより、こっちの方が近いですねぇ」
非常階段の途中から顔を出す。
「別棟の受取口までなら、一分ちょっとです」
篠原のいる場所へ続く経路だった。
「変更申請を優先するなら、間に合いますよぉ」
小暮の昼休みには、間に合わない。
◇
真意ちゃんは袋を見た。
「辛いものを食べると危険、は事実?」
篠原が通信越しに答える。
「危険とまでは言ってません。昨日、胃を悪くしたから心配です」
「小暮さんは?」
「食べたい」
「では、禁止ではなく心配。本人の希望とは逆」
真意ちゃんは至誠ちゃんを見る。
「理由を、決定と混ぜないで」
心配は消えない。
命令でもなくなった。
◇
二諦ちゃんは時計を見ていた。
「今渡す枝では、小暮さんは昼を食べられます」
ぱむちゃんを見る。
「渡さない枝では、胃への負担は避けられます」
「どちらが正しいですか!」
至誠ちゃんが聞く。
「その聞き方だと、どちらも残ります」
二諦ちゃんは介入しなかった。
残り二分。
◇
「じゃあ、辛いのだけ抜けない?」
渾沌ちゃんが袋の横から覗いた。
「厨房に聞く!」
返事を待つ前に走る。
十数秒後、通信が鳴った。
《ソース交換可能》
《再調理 最短三分》
「できる!」
渾沌ちゃんが笑う。
小暮が時計を見る。
「昼休み終わるね」
できることが増えた。
間に合うことは減った。
◇
至誠ちゃんは全部の記録を見た。
《現在受取 小暮》
《変更申請 篠原》
《本人 受取希望》
《体調懸念 事実》
《別棟経路 一分》
《再調理 三分》
「どれも、間違っていません!」
声が少しだけ小さくなる。
「でも、全部はできません!」
ぱむちゃんは、六つの記録を見る。
小暮を見る。
通信の向こうの篠原を見るように、端末を見る。
紙袋を見る。
誰も、もう指ささなかった。
時計だけが進む。
残り一分。
正解は増えた。
そのぶん、
一つを選ばなければならなくなった。




