第19話「待って」
九九番は、昼前に来た。
《西四番街・共同研究室》
《受取 共同当番》
至誠ちゃんが端末を見る。
「現在の当番は小暮さんです!」
ぱむちゃんが配送票を見る。
昨日までなら、それで十分だった。
至誠ちゃんは一度だけ息を吸った。
「小暮さんへお願いします!」
ぱむ。
ぱむちゃんが紙袋を持つ。
上バンズに深緑の点。
赤い線。
小さな配送タグ。
廊下の奥行きが伸びた。
◇
共同研究室。
小暮は入口にいた。
「あ、来た」
机の上には昼当番の札。
《小暮》
「俺ので合ってるよ」
ぱむちゃんが一歩近づく。
小暮が手を出す。
そのとき。
ぱむちゃんの背後で足音が鳴った。
「配送の人!」
別の研究員が走ってくる。
「今、受付から連絡です」
紙を一枚持っていた。
《共同当番 変更申請》
《申請者 篠原》
《処理 未完了》
小暮が眉を寄せる。
「それ、昨日のやつ?」
「たぶん」
「でもまだ変わってないだろ」
「端末上は小暮さんです」
ぱむちゃんは紙袋を持ったまま止まっている。
◇
至誠ちゃんの端末が鳴った。
現地の記録が転送される。
《現在当番 小暮》
《変更申請 篠原》
《処理 未完了》
至誠ちゃんは画面を見る。
「現在情報だけなら小暮さんです!」
指が配送完了候補へ動く。
止まる。
九五番の裏に、自分で書いた文字を思い出すように見る。
《佐伯を選択 至誠》
至誠ちゃんは通信を開いた。
「ぱむちゃん!」
共同研究室。
ぱむちゃんの赤い線が濃くなる。
小暮の手まで、あと少し。
「待って!」
ぱむちゃんの腕が止まった。
紙袋は、小暮の手に触れていない。
深緑の点も、赤い線も消えない。
ただ、進まない。
◇
「どうしたの?」
小暮が手を引く。
ぱむちゃんは答えない。
端末から至誠ちゃんの声がする。
「変更申請を確認します! 今は渡さないでください!」
小暮は少し困った顔をした。
「俺、昼休みあと十分なんだけど」
その言葉も記録された。
《小暮 受取希望》
ぱむちゃんは紙袋を抱え直した。
帰らない。
渡さない。
その場に残る。
◇
至誠ちゃんは配送ステーションで、九九番の欄を開いた。
最初に書いた。
《届け先候補 小暮》
その下へ追加する。
《変更申請 篠原》
最後に。
《停止 至誠》
至誠ちゃんはペンを置いた。
「始めたのも私です」
小さく言う。
「止めたのも、私です」
現地では、ぱむちゃんがまだ紙袋を持っていた。
至誠ちゃんが指した先へ、すぐ届くことはできる。
でも今日は、
指した先へ着くことより先に、
止まることができた。




