第16話「ありがとうございました」
昼前。
配送口の向こうから、見覚えのある人が入ってきた。
時計店の修理受付。
六二番を受け取った人だった。
「いた」
ぱむちゃんを見つける。
ぱむちゃんも顔を上げた。
「この前、ありがとう」
ぱむ。
「ほんと助かったんだ」
至誠ちゃんが横から来る。
「六二番の方ですね!」
「そう。十二時八分に届いたやつ」
覚えていた。
ぱむちゃんが一歩近づく。
◇
「あの日、十二時十五分から修理が詰まっててさ」
修理受付の人は笑う。
「あそこで食べられなかったら、夕方まで無理だった」
「間に合って良かったです!」
「うん。食べて、予定どおり十五分から入れた」
ぱむちゃんは相手を見る。
「それで、一件早く終わったんだ」
至誠ちゃんがうなずく。
「配送による時間確保ですね!」
「たぶん」
修理受付の人はポケットから小さな紙を出した。
《臨時受付 一件》
「空いた分で、飛び込みを一件受けられた」
「追加で一件!」
「そう。古い腕時計。明日使うっていうから」
紙の下に、時刻があった。
《十二時四十七分》
ぱむちゃんが紙を見る。
「直せたよ。今日の朝、取りに来た」
修理受付の人は笑った。
「だから、ほんとに助かった。あの飯がなかったら、その一件は受けてない」
「成功です!」
至誠ちゃんが言った。
ぱむちゃんの身体が少し跳ねた。
ぱむ!
◇
修理受付の人が帰ったあと。
入口に、もう一人来た。
若い女の人だった。
小さな目覚まし時計を抱えている。
「ここ、時計店の配達もしてます?」
「はい! 配達はします!」
「修理の受付じゃないか」
女の人は困ったように笑った。
「昨日、向かいの店に行ったんです」
ぱむちゃんが顔を上げる。
「十二時五十分くらい。今日中に直るか聞いたら、もう臨時枠が埋まったって」
至誠ちゃんの返事が止まった。
「別の店、紹介してもらったんですけどね」
「直りましたか!」
「まだです。明日の午後になるって」
女の人は時計を持ち直した。
「今日の朝、子どもに持たせたかったんだけど」
責める声ではなかった。
ただ、間に合わなかった話だった。
◇
「お名前を確認してもいいですか!」
「高瀬です」
至誠ちゃんがメモする。
《高瀬》
《十二時五十分頃》
《当日修理希望》
《臨時枠満了》
ぱむちゃんはその紙を見る。
少し前に見た紙。
《臨時受付 一件》
《十二時四十七分》
三分違いだった。
「その枠が空いてたら、直せたかもしれないって言われました」
「……はい」
至誠ちゃんの声が小さくなった。
「でも先に来た人がいたなら仕方ないですよ」
高瀬は笑う。
「その人も困ってたんでしょうし」
ぱむちゃんは目覚まし時計を見る。
高瀬はそれを抱えたまま帰った。
◇
配送ステーション。
至誠ちゃんは六二番の記録を出した。
《受領済/十二時八分》
その横へ、二枚の紙を置く。
《臨時受付 一件/十二時四十七分》
《高瀬/十二時五十分頃/当日修理不可》
「六二番は成功です」
至誠ちゃんが言った。
ぱむちゃんは六二番を見る。
「受取人も助かりました!」
次に、二枚の紙を見る。
「臨時の一件も助かっています!」
そこで止まる。
高瀬の紙だけ、少し下にある。
「でも」
至誠ちゃんは動かさなかった。
「高瀬さんの選択肢は、一つ減りました」
ぱむちゃんは六二番へ手を伸ばす。
触れない。
代わりに、高瀬の紙を六二番の隣へ寄せた。
成功の記録は、そのまま残った。
その横に、
助からなかったものも残った。




