第15話「どちらも正しいです」
《正しい受領先 》
空欄は、朝になっても空欄だった。
二諦ちゃんはそこへ何も書かなかった。
「埋めないんですか!」
至誠ちゃんが聞く。
「今は」
二諦ちゃんは九八番の配送票を持ち上げる。
「埋めると、片方が消えます」
ぱむちゃんが顔を上げた。
◇
第三制作室。
佐伯は端末の前にいた。
「また俺?」
「今日は渡しません!」
至誠ちゃんが先に言った。
「確認だけです!」
「それならいいけど」
二諦ちゃんは佐伯の前へ配送票を置く。
「これを、今ここで受け取ったら?」
「昼飯になる」
「その後は?」
「食って、午後の作業に戻る」
「誰か困りますか」
佐伯は少し考えた。
「今日は別に」
二諦ちゃんはうなずく。
ぱむちゃんは紙袋を持っていない。
今日は、渡すために来ていない。
◇
第二製版室。
宮野は印刷機の紙を揃えていた。
「また来た」
「確認です!」
「はいはい」
二諦ちゃんは同じ配送票を見せる。
「これを、今ここで受け取ったら?」
「今?」
宮野は機械を止めた。
「受け取らないよ。今はうちの便じゃないし」
「もし、共同当番が終わっていなかったら?」
宮野の手が止まる。
「それなら受け取る日もある」
「佐伯さんの名前でも?」
「まとめて受けてた頃なら」
二諦ちゃんはそれ以上聞かなかった。
◇
店へ戻る。
二諦ちゃんは配送票を机に置いた。
その左右へ、紙を一枚ずつ置く。
《佐伯が受け取る》
《宮野が受け取る》
「後者は過去の話です!」
「そうです」
「今なら佐伯さんです!」
「今だけ見れば」
至誠ちゃんが止まる。
二諦ちゃんは二枚の紙の間に指を置いた。
「この荷物は、今だけで判定されていません」
「端末がですか!」
「端末だけとは言っていません」
二諦ちゃんは九六番から九八番までを並べた。
「佐伯さんへ渡す枝があります」
右の紙。
「宮野さんが受け取る枝もあります」
左の紙。
「どちらが間違いですか!」
「どちらも、間違いではありません」
至誠ちゃんが黙った。
ぱむちゃんは二枚の紙を見る。
◇
「でも、二人には渡せません!」
「はい」
二諦ちゃんは即答した。
「一つしかありませんから」
紙袋を机の中央へ置く。
ぱむちゃんは手を出さない。
「佐伯さんへ渡した未来では、佐伯さんが受け取っています」
右側へ少し動かす。
「宮野さんへ渡した未来では、宮野さんが受け取っています」
左側へ戻す。
「両方成立するんですか!」
「成立する枝が見えます」
「じゃあ、両方正しいんですか!」
二諦ちゃんは紙袋から手を離した。
「どちらも正しいです」
至誠ちゃんは空欄を見る。
《正しい受領先 》
「だったら、どっちへ届ければいいんですか!」
二諦ちゃんは答えなかった。
代わりに、二枚の紙を重ねた。
ぴったり重ならない。
「扉は、誰が最初に触れるかで行き先が変わることがあります」
ぱむちゃんが紙袋を見る。
「配送も同じです」
二諦ちゃんが言う。
「渡した瞬間、もう片方は同じ形では残りません」
◇
配送ステーション。
至誠ちゃんは空欄を消さなかった。
その下に一行増やした。
《候補 一つではない》
ぱむちゃんは九八番の前に座る。
佐伯へ渡せる。
宮野へ渡せる。
どちらも嘘ではない。
でも、紙袋は一つしかない。
ぱむちゃんは、その日は持たなかった。
正しい場所が二つ見つかったから、
初めて、届けないまま終わった。




