第14話「分かりません」
《確認中》のトレーに、三枚並んでいた。
九六番。
九七番。
九八番。
九八番の端だけに、小さな紙。
《宮野》
真意ちゃんは外した。
「これは結論じゃない」
「宮野さんが届け先ではない、ということですか!」
「それもまだ」
真意ちゃんは紙を裏返す。
「分かってることだけ持っていく」
◇
第三制作室へ着くと、入口が半分ふさがっていた。
細長い木の板。
佐伯が片側を持っている。
「ちょうどよかった。そこ通る?」
反対側から宮野が顔を出した。
ぱむちゃんが止まる。
「宮野さん!」
「昨日、棚の古い札を剥がしたって聞いてさ」
板を床へ立てる。
表には、名前札を差す溝が七本。
《共同昼当番》
古い字だった。
「これも返しに来た」
佐伯が笑う。
「返すって、元はそっちの備品だっけ」
「知らない。だから半分ずつ持ってきた」
◇
真意ちゃんが板を見る。
溝には古い名前札が残っていた。
《佐伯》
《宮野》
《白井》
曜日ごとに位置が違う。
「この頃、佐伯さん宛ての昼便を宮野さんが受け取ることは?」
「あるよ」
宮野が即答した。
「まとめてた日は」
「今は?」
「ない」
佐伯も言う。
「今は俺の名前なら俺」
宮野は自分の名前札を溝から抜いた。
「もう使わないし、これだけもらう」
佐伯が《佐伯》を抜く。
「じゃあ俺も」
空いた溝が二本できた。
宮野は自分の札を作業着のポケットへ入れる。
「新しい当番表、午後に作るよ」
「頼む」
二人は板を壁へ立てかけた。
◇
真意ちゃんは九八番を出した。
次元ルーペを重ねる。
薄い輪の奥に線が浮いた。
一本は佐伯へ。
もう一本は、宮野の抜いた溝へ伸びる。
至誠ちゃんが板とルーペを交互に見る。
「宮野さんの札は、もうありません!」
「うん」
「今は佐伯さんです!」
「うん」
真意ちゃんが角度を変える。
二本とも途中で消えた。
「じゃあ、昔の記録ですか!」
「それなら簡単なんだけど」
もう一度。
佐伯への線も、先が読めない。
真意ちゃんはルーペを閉じた。
「分かりません」
「真意ちゃんでも!」
「どちらを一つだけ正しいと言えるかは」
宮野がポケットの名前札を指で押さえた。
「私、戻した方がいい?」
「戻さなくていい」
真意ちゃんは答えた。
「今の当番を変える理由にはならない」
宮野はうなずく。
◇
店へ戻る。
九八番の横へ二枚置く。
《現在/佐伯》
《旧共同当番/宮野受領あり》
至誠ちゃんが、その下へ書こうとする。
《正しい受領先 》
ペンが止まった。
「空欄です!」
「うん」
真意ちゃんは埋めなかった。
ぱむちゃんが空欄を見る。
机の端には、明日から使う新しい当番表の写しが届いていた。
《共同》の文字は、もうなかった。




