第13話「迷えば着きます」
彷徨ちゃんは、地図を逆さに持った。
「こっちですねぇ」
「逆です!」
至誠ちゃんが即答した。
「はい。なので、こっちへ行きますねぇ」
指したのは、もっと逆だった。
ぱむちゃんが首を傾ける。
配送ステーションには、九六番と九七番が《確認中》のまま残っている。
今日の九八番も、宛先は同じだった。
《西六番街六番地・共同制作棟第三室》
《受取人 佐伯》
秩序ちゃんが昨日、正しくした表記。
「第三制作室は東です!」
「東へ行くと着くのは、もう分かっていますねぇ」
彷徨ちゃんは西へ歩いた。
「今日は、着かない方を見ます」
◇
三本目の路地で、建物の番号が消えた。
五本目で、道が一本増えた。
彷徨ちゃんは立ち止まらない。
「入口の数も数えておきますねぇ」
ぱむちゃんが後ろをついていく。
至誠ちゃんは何度も端末を見る。
「第三制作室から離れています!」
「はい」
「残り距離が増えています!」
「増えていますねぇ」
「戻りますか!」
「まだです」
彷徨ちゃんは角を曲がった。
そこには、小さな印刷工房があった。
看板には《第二製版室》。
第三制作室ではない。
◇
中から女が出てきた。
「あれ」
紙袋を見て、足を止める。
「それ、まだあるんだ」
至誠ちゃんの手が端末の上で止まった。
「ご存じですか!」
「照り焼きのセットでしょ」
女は言った。
「第三制作室の昼便」
ぱむちゃんが紙袋を持ち上げた。
「佐伯さんのところに届くやつ」
女は笑った。
「前は、こっちにも来てたから」
ぱむちゃんは一歩近づく。
女の手が伸びかけた。
止まる。
「でも、それは私のじゃないよ」
ぱむちゃんも止まった。
紙袋を下げる。
渡さない。
◇
「お名前を確認してもいいですか!」
「宮野」
至誠ちゃんが端末を探す。
《受取人 佐伯》
「一致しません!」
「そうだろうね」
宮野は工房の奥を振り返った。
「うちと第三制作室、昔は昼当番を一緒に回してたんだよ」
「今は!」
「別」
「では、誤配送先です!」
至誠ちゃんが言う。
彷徨ちゃんは入口の床を見た。
「でも、正しい道を外れたら、ここへ着きましたねぇ」
「それは彷徨ちゃんだからです!」
「そうかもしれませんねぇ」
ぱむちゃんは宮野を見る。
宮野はもう手を伸ばしていない。
ぱむちゃんも差し出さない。
◇
帰り道。
彷徨ちゃんは来た道を使わなかった。
「同じ場所に別の入口から着いたら、合流かもしれませんねぇ」
「店は反対です!」
「はい」
十分後。
三人はぱんでむの配送口に出た。
至誠ちゃんが振り返る。
後ろにあったのは、店の裏通路だった。
「……西六番街は?」
「もうありませんねぇ」
ぱむちゃんは紙袋を抱えたまま、配送ステーションへ行く。
九八番を《完了》へは置かない。
《持戻り》にも置かない。
九六番。
九七番。
その横へ置いた。
《確認中》
至誠ちゃんが新しいメモを書く。
《別地点で荷物を認識した人物あり》
《宮野》
《受取拒否ではない》
《本人申告 自分の荷物ではない》
彷徨ちゃんが覗き込む。
「迷えば、着きますねぇ」
「正しい届け先には着いてません!」
「はい」
彷徨ちゃんは笑った。
「だから、見つかりましたねぇ」
ぱむちゃんは《宮野》の文字を見る。
間違った道の先に、
荷物を知っている人がいた。
でも、その人も受け取らなかった。
正しい場所は一つのはずなのに、
道の方が、二つ目を覚えていた。




