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第11話「誤配送です」


 九六番は、普通の注文だった。


《九六番/西六番街・第三制作室》

《受取人 佐伯》

《十二時二十分》

《商品 照り焼きバーガーセット》


 前日に届けた場所。


 前日に届けた人。


 至誠ちゃんは端末を確認した。


「住所、佐伯さん、時刻、商品! 全部一致しています!」


 ぱむちゃんは紙袋を持つ。


 ぱむ。


 深緑の点。

 赤い一本線。

 小さな配送タグ。


 廊下が短くなる。


 ◇


 第三制作室。


 佐伯は今日は机にいた。


「来た」


 昨日と同じ顔で笑う。


「今日は忘れてない」


 ぱむちゃんが紙袋を差し出す。


 佐伯が受け取る。


「照り焼き。合ってる」


 配送票を見る。


「俺の名前。ここ。時間も合ってる」


 受領欄に指を置く。


 ぴ。


 ぱむちゃんが跳ねた。


 ぱむ!


「昨日より早いな」


 佐伯は袋を開けた。


 中を見る。


「うん。頼んだやつ」


 ぱむちゃんは端末を見る。


 表示が切り替わった。


《MISDELIVERY》


 ぱむちゃんの動きが止まった。


「ん?」


 佐伯も見る。


《誤配送です》


「……俺、佐伯だけど」


 ぱむちゃんは配送票を見る。


《受取人 佐伯》


 佐伯を見る。


「佐伯です」


 紙袋を見る。


「照り焼きです」


 端末を見る。


《誤配送です》


 ◇


 至誠ちゃんが来た。


 走ってきたが、店内では足を止めた。


「確認します!」


 配送票。


「住所、一致!」


 入口の表示。


「第三制作室、一致!」


 佐伯の名札。


「受取人、一致!」


 時計。


「指定時刻内!」


 紙袋の明細。


「商品、一致!」


 佐伯が端末へもう一度指を置いた。


 ぴ。


《受領済み》


 一拍。


《誤配送です》


 至誠ちゃんは黙った。


 佐伯が笑いかけて、やめた。


「これ、食べちゃ駄目?」


「商品異常はありません!」


「じゃあ食べるけど」


「はい!」


 至誠ちゃんは答えた。


 でも、端末から目を離さなかった。


 ◇


 ぱむちゃんは受領済みの紙袋を取り返さなかった。


 佐伯は椅子に座る。


 バーガーを食べる。


「普通にうまい」


 ぱむちゃんは見る。


 昨日と同じように、ちゃんと食べている。


 昨日と同じ人。


 昨日と同じ場所。


 今日の注文。


 今日の商品。


 今日の受領。


 端末だけが違った。


《誤配送です》


 ◇


 配送ステーション。


 九六番の記録が戻ってきた。


《住所 確認済み》

《受取人 確認済み》

《時刻 確認済み》

《商品 確認済み》

《受領 確認済み》


 その下。


《判定 誤配送》


 至誠ちゃんが一行ずつ指で追った。


「全部、確認済みです!」


 ぱむちゃんは隣に立つ。


「なのに、誤配送です!」


 ぱむ。


 至誠ちゃんは端末を再起動した。


 表示が消える。


 起動する。


《九六番》


《誤配送です》


 故障表示は出ない。


 警告音も鳴らない。


 画面はいつも通りだった。


 至誠ちゃんは九六番を《完了》の束へ入れなかった。


 かといって《持戻り》にも入れられない。


 商品はもう佐伯が受け取っている。


 新しい場所が必要になった。


 至誠ちゃんは空のトレーを一つ持ってきた。


 九六番だけを置く。


《確認中》


 ぱむちゃんはその札を見る。


 前日は、届いたから成功だった。


 今日は、届いた。


 受け取った。


 喜んでもいた。


 それでも端末は、同じ言葉を変えなかった。


《誤配送です》

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