第10話「届いたから、成功」
九五番は、見覚えのある場所だった。
《九五番/西六番街・第三制作室》
《受取 昼当番》
少し前に、白井真帆へ届けたことのある建物。
今日は入口に白井がいた。
「あ、ぱむちゃん」
笑って手を振る。
ぱむちゃんも片手を上げた。
紙袋はもう片方の手で抱えたまま。
「今日は私じゃないよ」
白井が受付横の予定表を指した。
《昼当番 佐伯》
その下に、消し残した古い字があった。
《白井》
至誠ちゃんが端末を確認する。
「注文記録は第三制作室! 受取指定は昼当番です!」
白井がうなずいた。
「今日の当番は佐伯。奥の資料室にいるよ」
◇
資料室は、建物の反対側だった。
ぱむちゃんが歩き出す。
至誠ちゃんが予定表をもう一度見る。
「現在の当番は佐伯さん! 届け先、確定です!」
ぱむちゃんが振り返る。
至誠ちゃんは、奥を指した。
「お願いします!」
ぱむ。
上バンズに深緑の点。
赤い線。
小さな配送タグ。
廊下が一瞬だけ長く伸びた。
ぱむちゃんが消える。
◇
資料室。
佐伯は床に座っていた。
両脇に段ボール。
膝の上に分厚い台帳。
「……昼、忘れてた」
目の前にぱむちゃんがいる。
佐伯が笑った。
「助かった」
ぱむちゃんは紙袋を差し出す。
佐伯が受け取る。
受領欄に指を置く。
《DELIVERY COMPLETE》
端末が軽く鳴った。
ぱむちゃんが跳ねる。
ぱむ!
「そんなに嬉しい?」
佐伯も笑う。
「じゃあ、ちゃんと食うよ」
箱を一つ横へどける。
その場で袋を開いた。
湯気が出た。
「まだ温かい」
◇
戻ると、白井が受付にいた。
「届いた?」
ぱむ!
至誠ちゃんが端末を見せる。
《九五番 完了》
「成功です!」
「よかった」
白井は予定表の古い《白井》を消した。
新しい《佐伯》だけが残る。
「昨日、交代したばっかりで。直してなかったんだ」
「現在の当番を確認できました!」
至誠ちゃんは明るく答える。
「受取人も喜んでいました! 問題ありません!」
ぱむちゃんは完了表示を見る。
昨日は、受取人がいても受け取らなかった。
今日は、受け取った。
端末も完了した。
佐伯も笑っていた。
だから、九五番は成功だった。
◇
店へ戻ると、配送台に新しい依頼票が増えていた。
至誠ちゃんが九五番を完了側へ移す。
「二日ぶりの完了です!」
ぱむちゃんが跳ねる。
ぱむ!
近くにいたクルーが拍手した。
誰かが《ぱむちゃん便》の下に小さく書き足す。
《ちゃんと届く》
ぱむちゃんはその字を見た。
次の紙袋を見る。
至誠ちゃんを見る。
「次もお願いします!」
ぱむ!
ぱむちゃんは紙袋を持った。
九五番は、届いた。
受け取った人は喜んだ。
記録も《完了》だった。
その日は、それで十分だった。




